AIが同じミスを繰り返すのはなぜか|直した1回を、どこに置くかで決まる

「昨日それ直したはずなのに、今日また同じ形で出してきた」。顧問先で、この言葉を月に何度も聞きます。表の見出しの付け方、社名の書き方、敬称、金額の丸め方、送信前に必ず入れる一文。指摘したはずのことが、翌日には元に戻っている。何度か繰り返すと、その人はAIを開かなくなります。「学習しないなら、自分でやったほうが早い」。

先に結論を置きます。AIが覚えないのではありません。こちらが、直したものの置き場所を決めていないだけです。チャット画面のやり取りは、その会話が閉じればほとんど残りません。残らない場所に指摘を落とし続ければ、同じ指摘を毎日することになります。問題は記憶力ではなく、行き先の設計です。

ここで書くのは、私が顧問の現場で毎回渡している「直しの行き先4分岐」——流す(書かない)/メモリ(その人に覚えさせる)/ルール(会社の決めごとに1行足す)/コマンド(手順ごと名前を付けて呼び出す)——という仕分けです。1回の直しをどこへ置くかを決めた会社だけ、AIが育ちます。決めていない会社は、何年たっても初日のAIと仕事をし続けます。あわせて、増えすぎたルールの間引き方まで書きます。行き先を作る話だけを書いて、捨てる話を書かない記事は、半年後に読者を困らせるからです。


赤堀亘
執筆・監修 AiWiLL株式会社 代表取締役 赤堀亘

日本テレビ・Bitget等でのB2Bマーケティング実務を経て、2023年にSHIFT AI創業へ参画。コミュニティ・スクール責任者として2年で3万人規模へのグロースを主導。2026年、静岡県熱海市でAiWiLL株式会社を創業。生成AI顧問「WiLLAGENT」として、防災設備・不動産管理・旅館・飲食など現場型の中小企業に入り、売り上げ向上に寄与するマーケティングや営業施策をどうAIで質を上げ、数を増やすかを一緒に考え抜き、人手不足のなか報告書・見積・マニュアルづくりといった実務をいかにAIで省くかといった、AIを使った事業づくりを伴走支援している。生成AI研修・Eラーニングの監修も担当。企画したイベント・ウェビナーは累計112件、参加者は1万人超。

AIエージェント・新規事業リサーチ・マーケティングの実践セミナー3本の本編と、WiLLAGENTのサービス説明PDFを、無料の資料セットとして公開しています。→ 無料資料セットを受け取る

目次

AIが覚えないのではない。置き場所が決まっていないだけ

AIが同じミスを繰り返す、という相談で来る方の多くは、AIの性能を疑っています。私が現場で見る限り、性能の問題であることはほとんどありません。詰まっているのは、もっと手前です。指摘した内容が、次の日も生きている場所に書かれていない。それだけです。

人の新人を思い出してください。「その表現は、うちでは使わない」と口頭で言えば、新人はメモを取ります。手帳に書く。共有のマニュアルに追記する。先輩に確認する。この「メモを取る」動作を、AIは自分ではやりません。会話の中で「わかりました、以後気をつけます」と返してくるので、覚えたように見えます。返事だけが人間そっくりで、記録の習慣だけがない。ここが事故の入口です。

そのうえで、私が顧問先で最初にほどく前提の誤解は3つあります。

  • 「一度言えば覚える」という誤解。その会話の中では効きます。会話が変われば、多くの場合ゼロに戻ります。「昨日」という単位で効かせたいなら、会話の外に置くしかありません。
  • 「学習をオンにすれば会社のことを覚える」という誤解。入力内容の学習利用の設定と、自社専用に賢くなることは別の話です。むしろ会社の情報を扱うなら、学習利用は切る前提で設計します。この線引きはセキュリティ設計の記事にあります。
  • 「同じ会話を使い続ければいい」という誤解。会話が長くなるほど、序盤で決めたことは薄れます。加えて、その会話は本人の画面の中にしかありません。隣の人には引き継がれない。会社としては何も残っていないのと同じです。

つまり、直しが消える場所と、残る場所があります。ここを分けずに「AIは学習しない」と言うのは、メモを渡していない新人を「物覚えが悪い」と評価するのに似ています。まず、消える場所と残る場所を並べます。

直しを置いた場所 翌日効くか 他の人に効くか 実際に起きること
その場のチャットで口頭注意 × × 翌朝、同じ形で出てくる
長い会話を延々と続ける × 序盤の指示から順に効かなくなる
個人のメモ帳に控える × 本人が貼り忘れた日だけ元に戻る
記憶させる機能(メモリ等) その人・その案件では効く。会社全体には広がらない
会社のルール文書に1行 全員・全案件に効く。増えすぎると読まれなくなる
手順ごと登録した呼び出し(コマンド) 同じ手順が毎回同じ品質で走る
本人の頭の中だけ × × その人が休んだ日に、品質が落ちる

この表を顧問先のホワイトボードに書くと、たいてい部屋が静かになります。多くの会社は、上の2行だけでAIを使ってきたからです。上の2行は「相談」には向いています。「仕事」には向いていません。相談と仕事の違いは、翌日も同じ品質が出るかどうかです。

書籍『ChatGPTを、「AI社員」に育てる方法』で、私はAIを新入社員にたとえて書きました。賢いけれど、うちの会社のことは何も知らない。教えれば動く。ただし、教えたことをどこに残すかは、雇った側が決めます。コンテキストの設計という言葉が指しているのは、突き詰めればこの「残し方」です。

直しの行き先4分岐——流す/メモリ/ルール/コマンド

私が顧問の現場で、業務を一本動かしたあとに必ずやるワークがあります。「いま直したその直し、どこへ返しますか」と聞くワークです。行き先は4つしかありません。全部をルールにしないこと、逆に全部を流さないこと。この仕分けが、AIが育つ会社と育たない会社の分かれ目です。

直しの行き先4分岐

AIの出力を直した

今回だけの好みか? → はい

①【流す】直さない。記録もしない

一度きりの気分・その案件だけの例外。ここを書き始めるとルールが破裂する

その人・その案件に固有の事実か? → はい

②【メモリ】覚えさせる

「この取引先は請求書を月末締めで受け取る」など、次の仕事の前提になる事実

会社として毎回そうするか?(同じミスが2回) → はい

③【ルール】文書に1行書く

就業規則への昇格。以後すべての作業・全員に効く。判定できる文で書く

同じ手順を3回繰り返したか? → はい

④【コマンド】手順書にして名前で呼ぶ

毎回の説明をやめ、合言葉一つで同じ品質を走らせる。作るのは3回やってから

出所:AiWiLLが顧問先へ渡している社内資料『AIエージェント導入・コンテキスト設計ガイド』の標準ワーク(オンボーディング運用)

①【流す】——直さないという選択肢を、最初に置く

4つのうち、いちばん軽く見られていて、いちばん重要なのがこれです。全部を仕組みにしないこと。

AI導入で最初につまずく会社の多くは、やる気がありすぎます。出力を直すたびに「これもルールに入れよう」と決めて、1ヶ月でルール文書がA4で十数枚になる。そうなると誰も読まないし、AIに渡しても矛盾した指示が同居して、精度がむしろ落ちます。ルールは、書けば書くほど効くものではありません。

流してよいのは、こういうものです。今日の資料だけ少し柔らかい言い回しにした。この案件の相手が高齢なので文字を大きくした。この一本だけ結論を先に置いた。次に同じ場面が来る保証がないものは、書かない。書かなかったせいでもう一度直すことになったら、そのときに②か③へ上げればいい。「一度で仕組みにしない」ことが、長く続く運用の条件です。

②【メモリ】——その人・その案件に固有の「事実」を覚えさせる

記憶させる機能は、ツールによって名前が違います。メモリ、カスタム指示、プロジェクト単位の設定、共有スペースの説明欄。呼び名は2年後にはまた変わっているでしょう。名前が変わっても残る原理はこれです。メモリに入れるのは「事実」であって「気合い」ではない。

入れてよいもの。担当者の呼び方。よく使うファイルの置き場。取引条件のうち、社内で共有してよい範囲のもの。「提案書はHTMLで作る」のような、次の仕事の前提になる決めごと。入れてはいけないもの。「もっと丁寧に」「品質を上げて」といった、判定のしようがない願望。そして、パスワードや認証情報、個人の機微情報。メモリは便利な分、入れたことを忘れます。忘れても事故らないものだけを入れる、が原則です。

メモリのもう一つの性質は、広がらないことです。その人の環境、そのプロジェクトの中でだけ効きます。だから、隣の人が同じ間違いをしているなら、それはメモリの案件ではありません。③のルールです。ここを混同したまま「メモリに入れたのに他の人が直っていない」と悩む会社が、かなりあります。

③【ルール】——同じミスが2回起きたら、文書に1行

会社として毎回そうする、と決めたことは、人の記憶にもチャットにも置かず、文書に書きます。AIに毎回読ませる前提の、社内規程にあたるファイルです。生成AIの社内ルールの記事で書いた「使ってよい範囲」のルールとは層が違います。あちらは安全のルール、こちらは品質のルールです。

問題は、いつ上げるかです。私が使っている基準は単純です。同じミスが2回起きたら書く。1回では書かない。1回目は偶然かもしれない。2回目は構造です。この基準を決めておかないと、機嫌のいい日にはルールが増え、忙しい日には増えない、という気分運用になります。

もう一つ。ルールは「読む人がいる文書」ではなく「毎回読まれる文書」です。人間の規程集は、入社時に一度読んで棚に戻ります。AIに渡すルール文書は、仕事のたびに全文が読まれます。だから長さがそのまま品質に効きます。長い規程集をそのまま渡すと、大事な3行が薄まります。この点は後半の「間引き」で詳しく書きます。

④【コマンド】——3回繰り返した手順は、名前で呼ぶ

ルールに書いても消えない面倒があります。「毎回、同じ説明をしている」という面倒です。月次の請求まとめ、点検報告の下書き、営業メールの型、議事録から宿題を抜く作業。手順自体が固定なら、その手順ごと登録して、一言で呼び出せるようにします。呼び名は、ツールによってコマンド、スキル、テンプレート、保存済みの指示、と変わります。2年後に名前が変わっても残るのは「毎回説明しない」という一点です。

作るタイミングにも基準があります。手で3回やってから作る。先回りして作らない。これは私が自分の運用で何度も失敗して決めた線です。1回目で仕組みにすると、たいてい間違った手順を固定してしまいます。3回やると、変わらない骨と、毎回変わる肉が分かれます。骨だけを登録する。肉は毎回口で言う。この分け方を守らないと、便利な呼び出しのはずが「使いにくい半自動」になって放置されます。仕組みへの上げ方そのものはスキル化の記事にまとめてあります。

行き先 上げる条件 効く範囲 中身の性質 やりすぎたときの症状
①流す 今回だけの好み その1回 記録しない 何も蓄積せず、毎日同じ指摘が続く
②メモリ その人・その案件で再発しそう 本人/その案件 変わらない事実 古い事実が残り、間違った前提で動く
③ルール 同じミスが2回 全員・全案件 判定できる決めごと 枚数が増え、誰も読まない・矛盾する
④コマンド 同じ手順を3回 呼んだ人全員 固定された手順 使われない半端な自動化が並ぶ
(誤)口頭注意だけ その会話のみ 消える 「AIは学習しない」という結論に着地する
(誤)全部ルール 形式上は全員 願望の羅列 読まれず、精度がむしろ落ちる

この4分岐は、道具の話ではありません。会社の中で「決めごとをどこに置くか」という、AIが来る前からある話です。だから2年後にツールの画面が変わっても、この4つは残ります。つまりこれは、AIの使い方である前に、会社の決めごとの置き方の話です。

仕分けの前に問う一言——「これは今回だけか、毎回か」

4分岐を渡すと、ほぼ全員が同じ場所で止まります。「で、これはどれですか?」。判断がつかない。理由ははっきりしていて、直した直後は、全部が「重要」に見えるからです。手を動かした直後は、その手間が生々しい。生々しさで仕分けると、全部が③のルール行きになります。

だから順序を先に決めます。行き先を選ぶ前に、必ずこの一言を挟みます。

仕分けの第一問

これは今回だけのことか。それとも、毎回そうしてほしいことか。

「毎回」でなければ、①流す。「毎回」なら、次に「誰にとって毎回か」を問う。本人だけなら②メモリ、会社としてなら③ルール、手順まで固定なら④コマンド。

この一問を飛ばすと、何が起きるか。ルール文書だけが太ります。半年後、A4十数枚の「守られていない決めごと集」が残り、新しく入った人は最初の1ページで読むのをやめます。AIも同じです。読ませる文書が長くなるほど、本当に守ってほしい3行が埋もれます。ルールが膨らんで誰も読まなくなるのは、ルールを書きすぎたからではなく、第一問を飛ばしたからです。

もう一つ、順序に関する実務上のコツがあります。直した瞬間に仕分けない。その場では「あとで仕分ける印」だけ付けて、仕事を進める。1日の終わりか、週に一度、まとめて仕分ける。直後は熱があるので判定を誤りますし、仕分けのために仕事が止まると、そもそも続きません。私は日次のログに一行残しておいて、週に一度まとめて上げています。暗黙知をAIに渡す記事で書いた「言語化は後追いでいい」という考え方と、同じ発想です。

持ち帰り①:直しの行き先を決める10問

週に一度の仕分けで、そのまま上から順に使えるようにしたものです。答えが出た時点で行き先が決まるので、10問すべてを毎回通す必要はありません。

  1. 同じ直しを、過去にもしたか。初めてなら①流す。2回目以降なら先へ進む。
  2. 次に同じ場面が来ると、はっきり言えるか。「来るかもしれない」程度なら①流す。
  3. これは好みか、事実か。好みなら①か②。事実(社名の正式表記、締め日、置き場所)なら②以上へ。
  4. 自分以外の人も、同じ間違いをしそうか。しそうなら③ルール。自分だけなら②メモリ。
  5. その案件が終わったら、要らなくなるか。要らなくなるなら②メモリ(案件単位)。会社が続く限り効くなら③ルール。
  6. 守れているかどうかを、後から判定できるか。判定できないなら、まだ③に上げない。書き方を直してから上げる(次章)。
  7. すでに似た決めごとが、どこかに書かれていないか。あるなら新規追加ではなく、既存の1行を書き直す。
  8. この直しは、指示ではなく手順の話ではないか。手順なら③ではなく④の候補。ただし3回目まで待つ。
  9. 手で3回やったか。3回未満なら④コマンドにはしない。まだ形が固まっていない。
  10. これを増やすと、代わりに消せる行はあるか。あるなら同時に消す。増やすだけの運用は、必ず破裂する。

6番と10番が、この10問の要です。6番を飛ばすと「守れているか分からないルール」が増えます。10番を飛ばすと、文書が一方向に太り続けます。この2つだけ守れば、あとは多少の判断ミスがあっても運用は壊れません。

持ち帰り②:ルールに書くときの文の型——判定できる書き方と、できない書き方

10問の6番、「守れているかどうかを、後から判定できるか」。ここが実務でいちばん効きます。同じ内容でも、書き方一つで、翌日から効くルールと、一生効かないルールに分かれます。

効かないルールには共通の形があります。形容詞と副詞で書かれていることです。丁寧に、適切に、しっかり、なるべく、意識して。これらは人間相手でも判定できません。AI相手ならなおさらです。判定できない文は、書いた本人しか意味が分からないので、翌週には本人も忘れます。

直したかったこと 判定できない書き方(NG) 判定できる書き方(OK)
文章が硬い もっと丁寧で親しみやすい文章にする 一文は60字以内。二重敬語を使わない。冒頭に時候の挨拶を入れない
数字の扱いが雑 数字は正確に扱う 確認できていない数字は「未確認」と書く。推測で桁を補わない
社名の表記ゆれ 社名は正しく書く 社名は正式名称。株式会社は前株・後株を台帳どおりに書く。略称は本文で使わない
資料の粒度がバラバラ 読みやすい資料にする 1スライド1メッセージ。見出しは体言止め。本文は3行以内
送信前の抜け漏れ 送信前によく確認する 宛先・金額・添付の3点を、送信前に一覧で出す。送信そのものは行わない
勝手に判断される 勝手なことをしない 指示にない項目を追加したときは、末尾に「追加した項目」として列挙する
提案が浅い 質の高い提案をする 案は必ず3つ。各案に「やらない理由」を1行添える

右の列の文には、共通する性質があります。読んだ人が「守れている/守れていない」を指差せる。数、名詞、動作で書かれているからです。この書き方に直すと、副次的な効果が2つ出ます。

1つは、AIの出力が安定すること。当然です。判定できる指示は、実行もできます。もう1つのほうが大きくて、書いた本人の頭の中が整理されることです。「もっと丁寧に」を判定できる形に直そうとすると、自分が何に苛立っていたのかを言葉にしなければなりません。二重敬語が嫌だったのか、長い文が嫌だったのか、時候の挨拶が要らなかったのか。ここで初めて、暗黙のうちに持っていた基準が外に出ます。

私が顧問の場でよく言うのは、これです。ルールに書けない指摘は、指摘ではなく気分です。厳しい言い方に聞こえますが、逆でもあります。書けるところまで言語化できたなら、それはもう会社の資産です。AIに渡すためだけの作業ではありません。新人教育の資料が、同じ手間で一枚できています。

書き方の型を、3つだけ置いておきます。長い規程を作るより、この型で1行ずつ増やすほうが続きます。

【型1|必ずやる】
(いつ)+(何を)+(どうする)
例:見積を作るときは、単価の根拠を1行併記する

【型2|やらない】
(何を)+しない/(誰の許可なく)+しない
例:送信・公開・値引きは、人の承認なしに実行しない

【型3|迷ったとき】
(条件)なら(A)/それ以外は(B)
例:社外に出る文書なら固有名詞を伏せる/社内資料ならそのまま書く

3つとも、主語が「AI」でも「社員」でも成立するように書いてあります。これは意図的です。AI専用のルールと人間用のルールを別々に持つと、二重管理になって、片方が必ず腐ります。チームでコンテキストを共有する記事で書いたとおり、共有すべきなのは「会社としてどうするか」の一本です。

手で3回やってから、仕組みにする

4分岐の④に関わる規律を、独立した章にしておきます。私が自分の運用で一番よく破りたくなり、破ると一番痛い目を見る線だからです。

手で3回やってから、仕組みにする。先回りして作らない。

AIを触り始めた人は、必ず「これ、自動化できるのでは」と思います。思うのは正しい。ただ、1回目でやると、ほぼ外します。理由は3つあります。

  1. 1回目は、手順がまだ手順になっていない。その場の思いつきが混ざっているので、固定すると変な癖ごと固まります。
  2. 2回目で、変わる部分が見える。1回目と2回目の差分が、毎回変わる「肉」です。骨と肉を分けられるのは、2回目以降です。
  3. 3回目で、続く仕事だと分かる。3回起きなかった仕事は、そもそも仕組みにする価値がありません。私が見てきた範囲では、「作ったけど使われていない自動化」の多くは、2回で終わる仕事に対して作られています。

自社の例で言うと、イベントの申込状況を毎朝まとめる作業がありました。最初は手で見て、手で表に転記していました。3回目あたりで、見る場所も、集計の切り口も、報告の形も変わらないことがはっきりした。そこで初めて、毎朝の定時実行にしました。いまは人が見るのは結果の表だけです。先に自動化していたら、集計の切り口が固まる前に固定して、作り直していたはずです。

この規律には、もう一つ効用があります。作らない判断ができるようになること。AI導入で疲れる会社は、たいてい作りすぎています。ルールも、テンプレートも、自動化も。3回ルールを置くと、「まだ1回目だから作らない」と言えるようになります。作らない理由を持てるかどうかが、半年後の運用の重さを決めます。

ルールが増えすぎたときの間引き方

ここからが、この記事でいちばん書きたかったところです。行き先を作る話はよく語られます。捨てる話はほとんど語られません。結果、半年後に「ルール文書が肥大して、誰も読まない」という二次災害が起きます。

私は自社のルールファイルに、ルールを増やす基準そのものを書いています。「同じミスが2回以上起きたらルール化する」「次回以降も効くものだけ追加する」「長くなりすぎたら、個別の場所へ分ける」——この3行が、実際にファイルの中にあります。増やす基準と、分ける基準を、ルールとして持っている。ここまでやらないと、文書は必ず一方向に太ります。

そのうえで、四半期に一度くらいの頻度で間引きます。判断は3つだけです。

ルールの間引き 3判断

判断1|守られていないルールは、消す
3ヶ月守られていないなら、それは「守れないルール」です。守らせる努力より、消す判断が先。残すなら、守れる形に書き直してから残す
判断2|矛盾したら、新しい方を残す
古い行を残したまま新しい行を足さない。会社の方針は変わります。変わったことを認めて、古い1行を消す
判断3|長くなったら、分ける
全員に効く「会社の規程」と、その部署・その案件でだけ効く決めごとを分離する。全文が毎回読まれる文書は、短いほど強い

出所:自社のルールファイル運用(更新基準の3行は実在。中身の全文は非公開)

判断1について、少し補足します。「守られていないから、周知を徹底しよう」と考えるのが普通の会社です。私は逆にしています。3ヶ月守られなかったルールは、内容ではなく書き方に問題があることが多い。判定できない書き方になっているか、そもそも現場の動きと合っていないか。どちらにせよ、貼り紙を増やしても直りません。消して、必要なら書き直す。この判断ができる会社の規程は、薄くて強くなります。

判断2の「新しい方を残す」は、経営の話でもあります。方針が変わったのに古い行を消せない会社は、AIに矛盾した指示を渡し続けます。AIは矛盾を指摘せずに、どちらかを勝手に選びます。選んだ結果が気に入らないと、また指摘が飛ぶ。ここで「AIは言うことを聞かない」という誤解が生まれます。聞いていないのはAIではなく、矛盾を放置した側です。

判断3は、実務でいちばん効きます。うちの場合、全員に効く決めごとは短く保ち、事業ごと・案件ごとの細かい話は、その場所のファイルに置いています。共有の仕方も2層にしていて、幹部が見る層と、スタッフが見る層を分けています。全部を1枚に集めると、読む人にとって9割が他人事になる。他人事が9割ある文書は、読まれません。

症状 本当の原因 やってはいけない対処 やる対処
ルールが守られない 判定できない書き方 周知を徹底する 数・名詞・動作で書き直す
ルールが多すぎる 1回で仕組みにしている 整理担当を置く 「2回起きたら」の基準を先に決める
出力が不安定 矛盾した行が同居 指示を長くする 古い行を消す
誰も読まない 他人事が9割 読ませる会議を開く 全員向けと部署向けに分ける
自動化が使われない 3回未満で作った 使い方を教える いったん捨てて、手で3回やり直す
メモリの前提が古い 入れっぱなし 全消しして入れ直す 案件終了時に、その案件分だけ消す

強制力を上げる前に、判定できる形に書き直せているか

「同じ指摘を二度させない」ために、指摘を記録して強制力を段階的に上げていく——という設計が、現場で出てきています。考え方としては筋が通っています。段階はだいたいこうなります。

  1. 注意。ルール文書に1行書き、毎回読ませる。守るかどうかは出力側に委ねられる。
  2. 確認。作業の終わりに、その項目を満たしているかを自己点検させ、結果を並べて出させる。
  3. 禁止。その行為そのものをできなくする。送信・公開・削除など、取り返しがつかない操作を人の手前で止める。

この3段は、実務で使えます。ただし、順番を間違えている会社を何度か見ました。守られないから強制力を上げる、という順番です。これはだいたい失敗します。

理由は単純で、判定できない文の強制力を上げても、判定できないままだからです。「丁寧に書く」を確認ステップに入れると、「丁寧に書きました」という自己申告が返ってきます。禁止にしようとしても、何を禁止すればいいのか書けません。強制力は、判定できる文にしか乗りません。

本質はここ

強制力を上げる前に、その1行は判定できる形に書き直せているか。

仕組みの名前(記録・スコア・ゲート)は、2年後には別のものになります。残るのは、「判定できる形にしてから強制する」という順番のほうです。

もう一点、段階を上げる基準も持っておきます。私の場合はこうです。注意で足りるものは注意のまま。確認まで上げるのは、抜けると手戻りが大きいもの。禁止まで上げるのは、取り返しがつかないものだけ。送信、公開、削除、支払い。この4つは、うちでは人の承認なしに走らせません。逆に、文体や見出しの付け方に禁止をかけると、仕事が止まります。強制力は、事故の大きさに比例させる。全部を最上段にする会社は、3日で運用をやめます。

そして、確認段階を入れるときの注意が一つあります。自己申告を、確認済みとして扱わないこと。「確認しました」という一行ではなく、「宛先=◯◯/金額=◯◯/添付=あり」のように、判定材料を並べて出させる。人が見るのは、その並びです。ここを省くと、完成した顔の文書だけが増えて、誰も疑わなくなります。

自社では、ルールを増やす基準までルールにしてある

AI顧問として累計15社ほどを見てきて、いま私が確信していることがあります。うちは社員2名、業務委託を含めて8名の会社です。創業は2026年2月。この人数で顧問先を持ち、記事も動画も出しているので、同じ説明を二度する余裕がありません。だからこの4分岐は、顧客向けの理屈ではなく、自分たちの生活のために回しています。公開してよいのは中身ではなく構造なので、骨だけ書きます。

  • ルールを増やす基準が、ルールファイルの中にある。「同じミスが2回以上起きたらルール化する」「次回以降も効くものだけ追加する」「長くなりすぎたら分ける」。増やし方と分け方を、先に決めてある。
  • 共有は2層。幹部が見る層と、スタッフが見る層を分けています。全員に同じ量を渡さない。他人事を9割含む文書は読まれない、という判断からです。
  • デザインの決めごとは、1枚のファイルにして毎回読ませる。資料・図解・スライドの見た目が人によってバラつく問題は、その都度の指摘では直りませんでした。1枚にまとめて、作るたびに読ませる形にしてから、トーンが揃いました。これは③ルールの典型例です。
  • 会計・カレンダー・メール・ドライブは、AIから直接読める形につないでいる。数値の中身はここには書きませんが、狙いは一つで、「毎回コピペして貼る」という手作業を消すことです。手作業が残っていると、その手順の直しがどこにも溜まりません。
  • 会議の記録から、判断のルールを抜き出して社内規程へ書き戻している。会議で決まったことが議事録の中で眠るのが、いちばんもったいない。決めたことのうち「次回以降も効くもの」だけをルールに上げる。ここでは骨だけにとどめますが、これも③ルールの層の話です。

この運用を回していて、私が実感していることが一つあります。コンテキストを整理する時間を、別に取っていないということです。仕事をすると、記録が残る。直しが出る。週に一度、直しを仕分ける。それだけで、昨日より今日のAIのほうが、うちの会社をよく知っています。整理の日を別に設ける運用は、忙しい月に飛びます。飛ばない運用は、仕事そのものの中に組み込まれているものだけです。

先に踏んで痛い目を見た形

うまくいった話だけ書いても役に立たないので、自社と顧問先で見た失敗を、一般化して並べます。

  • 1回目の直しを、その日のうちに全部ルールにした。1ヶ月でルール文書が読めない厚さになり、AIの出力精度が下がった。矛盾した行が同居していたのが原因です。
  • メモリに願望を入れた。「品質を上げて」「もっと考えて」。何も変わらないので、「メモリは効かない」という結論になった。効かないのはメモリではなく、判定できない文のほうです。
  • 本人の環境だけに覚えさせて、会社に広げなかった。その人が休んだ日に、品質が元に戻った。②で止めるべきでない案件を、②で止めていた形です。
  • 2回で終わる仕事を自動化した。3回目が来なかったので、使われないまま残った。社員がAIを使わない記事で書いた「触られない仕組み」の典型です。
  • 守られないルールに、周知の徹底で対抗した。会議で読み合わせをして、翌週には元通り。書き方を直すべきところを、気合いで押した。
  • 古い決めごとを消さないまま、新しい決めごとを足した。AIが古い方を選んだ日に「言うことを聞かない」と言ってしまった。聞いていなかったのはこちらです。
  • 強制力から入った。いきなり「確認ステップを全項目に入れる」をやって、作業が重くなり、3日で外した。事故の大きさに比例させていなかった。

どれも、道具の性能不足ではありません。仕分けの設計不足です。直す方法も、新しいツールではなく、4分岐と、判定できる文と、間引きの3判断です。

持ち帰り③:来週から90日で、ここまで通す

全部を一度にやろうとすると続きません。私が顧問先で通す順番は、これです。90日で1本通れば、あとは業務のたびに勝手に積み上がります。

時期 やること やらないこと できた印
1〜2週目 直したら、その場で1行だけ記録する(行き先は決めない) ルール文書を作る 1週間分の「直し」が一覧になっている
3〜4週目 週に一度、記録を4分岐で仕分ける 全部をルールに上げる ①流すに振り分けた行が半分以上ある
2ヶ月目 2回起きた直しだけ、判定できる文でルールに1行 長い規程集を作る ルールが10行以内で、全部が判定できる文
2ヶ月目後半 3回やった手順を1つだけ、呼び出しにする 複数を同時に作る 1つの合言葉で、同じ品質が出る
3ヶ月目 取り返しのつかない操作にだけ、人の承認を挟む 全項目に確認を入れる 送信・公開・削除・支払いが止まっている
3ヶ月目末 守られていない行を消す。矛盾は新しい方を残す 周知の徹底で押す ルールの行数が、先月より減っている

最後の行に注目してください。3ヶ月目末に、ルールの行数が減っていること。これが、この運用がちゃんと回っている印です。増え続けている会社は、①流すの判断ができていません。減らせる会社は、半年後も同じ運用を続けられます。

チェックリストの形でも置いておきます。来週の朝礼で、そのまま読める粒度にしてあります。

  1. 直したら、その場で1行だけ記録する場所を決めた(チャットの中には残さない)
  2. 仕分けは、直した直後ではなく、週に一度まとめてやると決めた
  3. 「今回だけか、毎回か」を、行き先を選ぶ前に必ず問うことにした
  4. 1回目の直しは、原則として①流すと決めた
  5. ルールに上げる条件を「同じミスが2回」に固定した
  6. 呼び出しを作る条件を「手で3回やってから」に固定した
  7. ルールの1行は、数・名詞・動作で書く(形容詞と副詞で書かない)
  8. 取り返しのつかない操作(送信・公開・削除・支払い)だけ、人の承認を挟んだ
  9. 四半期に一度、守られていない行を消す日をカレンダーに入れた
  10. ルールを増やす基準そのものを、ルールに書いた

よくある質問

Q1. 記憶させる機能を使えば、同じミスは止まりますか?

本人の作業では止まります。会社では止まりません。記憶させる機能は、その人・その案件の中で効くものだからです。隣の人も同じ間違いをしているなら、それはメモリではなくルールの案件です。「メモリに入れたのに他の人が直っていない」という相談は、この取り違えがほとんどです。

Q2. 毎回同じ説明をするのが面倒です。どこから手を付けますか?

その説明を、直近で何回したかを数えてください。3回未満なら、まだ手でやります。3回以上なら、その手順を登録して名前で呼べるようにします。数える前に作ると、まだ固まっていない手順を固定してしまい、作り直しになります。

Q3. ルールを書いても守られません。どうすればいいですか?

まず、その1行が判定できる形かを見てください。「丁寧に」「適切に」「しっかり」で書かれていたら、守れているかを誰も判定できません。数・名詞・動作に書き直す。書き直しても3ヶ月守られなかったら、そのルールは消します。守らせる努力より、消す判断のほうが先です。

Q4. ルールが増えすぎて、誰も読まなくなりました。

3つで間引きます。守られていない行は消す。矛盾したら新しい方を残す。長くなったら、全員向けと部署・案件向けに分ける。そのうえで、増やす基準(同じミスが2回起きたら、など)をルールの中に書いてください。基準がないと、また同じ厚さに戻ります。

Q5. 会話を一つ続けて使えば、覚えていてくれるのでは?

短期的にはそうです。ただ、会話が長くなるほど序盤の指示から順に効かなくなりますし、その会話は本人の画面の中にしかありません。休んだ日、担当が変わった日に、会社としては何も残っていない状態になります。会話は相談に使い、決めごとは会話の外に置いてください。

Q6. 指摘を記録して、強制力を上げていく仕組みは有効ですか?

考え方は有効です。順番だけ間違えないでください。守られないから強制力を上げる、ではなく、判定できる形に書き直してから強制力を上げる。判定できない文は、確認段階に入れると「やりました」という自己申告が返ってくるだけです。強制力は、事故の大きさに比例させます。取り返しのつかない操作だけを止めれば足ります。

Q7. 社員が10名います。全員分のルールを個別に作るべきですか?

作らないでください。個人ごとの決めごとはメモリの層に置き、会社としての決めごとだけをルールに上げます。個別のルールを人数分持つと、更新できるのは書いた本人だけになり、その人が抜けた時点で全部が古くなります。共有の設計はチーム共有の記事にまとめてあります。

Q8. どのツールを使えば、この4分岐が実現できますか?

ツールで決まる話ではありません。①流すは何も使いません。②メモリは、記憶させる機能があるものなら何でも構いません。③ルールは、毎回読ませられる1枚のファイルがあれば足ります。④コマンドは、手順を保存して呼び出せる仕組みがあればよい。名前は2年後には変わっています。変わらないのは「1回の直しを、どこに置くか」という問いのほうです。

Q9. 直すたびに仕分けるのは、かえって手間が増えませんか?

直した瞬間に仕分けると、増えます。だから私は、その場では1行だけ残して、仕分けは週に一度にまとめています。直後は熱があるので判定を誤りますし、仕分けのために仕事が止まると続きません。週30分で足ります。

Q10. 導入して何ヶ月で、同じミスは減りますか?

2回目の直しをルールに上げた翌日から、その1件については止まります。全体として手応えが出るのは、仕分けが習慣になる3ヶ月目あたりです。判定材料は「ルールの行数が減り始めたか」。増え続けているうちは、まだ仕分けができていません。

まとめ:直した1回を、どこに置くかで決まる

AIが同じ間違いを繰り返す理由は、記憶力ではありません。直したものが、翌日も生きている場所に置かれていないからです。

  • チャットの中の指摘は、会話が閉じれば消える。相談には向くが、仕事には残らない
  • 行き先は4つ。①流す(今回だけの好み)②メモリ(その人・その案件の事実)③ルール(会社として毎回)④コマンド(3回繰り返した手順)
  • 行き先を選ぶ前に、「今回だけか、毎回か」を必ず問う。ここを飛ばすとルールが膨らみ、誰も読まなくなる
  • ルールの1行は、数・名詞・動作で書く。形容詞と副詞で書いた行は、一生効かない
  • 仕組みは、手で3回やってから作る。先回りして作らない
  • 守られていない行は消す。矛盾したら新しい方を残す。長くなったら分ける
  • 強制力を上げる前に、判定できる形に書き直せているかを見る

2年後、記憶させる機能の呼び名も、手順を登録する仕組みの名前も、変わっているはずです。残るのは4分岐の判断そのものです。「これは今回だけか、毎回か」「誰にとって毎回か」「もう3回やったか」。この3つの問いは、AIが来る前から会社の中にあったもので、AIの世代が変わっても消えません。

私が顧問先に残したい一番の資産も、個々の成果物ではなく、この仕分けの習慣です。伴走の役割はAI顧問とはに、AIに仕事を覚えさせる全体像はAI社員のつくり方にあります。昨日の直しがどこにも残っていない、という自覚がある方には、進め方をまとめた無料の資料セットを置いてあります。行き先の決め方と、増えたルールの間引き方は、こちらからどうぞ。

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