AI顧問の1ヶ月目にやるのは、オリエンテーションではありません。その会社で、目に見えて仕事が変わるところに「最初の一手」を打つことです。

赤堀亘
執筆・監修 AiWiLL株式会社 代表取締役 赤堀亘

AiWiLL株式会社代表。AI顧問「WiLLAGENT」で、企業の仕事をAIと人が進められる形にする伴走支援を行っています。記事では、実務で使える手順と、人が確認すべき点を明らかにします。

ただ、この一手の選び方を間違えると、効果が出るまでに時間がかかります。防災設備の点検・保守を行う会社では、最初に選んだ点検報告書の仕事が実務で使えるようになるまで、3か月かかりました。その経験から、いまは1か月目で効果が出る、もっと簡単な仕事から始めることにしています。

この記事では、契約から最初の一手までの流れ、一手の選び方の基準、防災点検の現場で3か月かかった理由、1ヶ月目の回し方と、終わりに残るものを書きます。自社で最初の一手を探すための問いも、最後に置いておきます。

契約してから、最初の定例までにやること

やることは多くありません。電子契約を送って、署名してもらう。最初の定例の日程を決める。それだけです。

私が最初の定例までに用意するのは、「これからこういうことをしていくといいかもしれないですね」という案です。アジェンダの下書きにあたります。分厚い計画書は作りません。計画は、会社を見て、話を聞いてから立てるものだからです。

最初の一手は、聞いて、見て、選ぶ

参加者の方の横に立ち、一緒にスマートフォンの画面を確かめる赤堀亘
一緒に画面を見ながら、どこで手が止まるかを確かめる。

初日の進め方は、会社によって変わります。決まった時間割はありません。変えないのは一つだけです。その会社にとって、まず目に見えて仕事が変わるところに着手すること。

そのために、丁寧に話を聞き、現場を見ます。実際に働いている人と話し、経営者や幹部とも話す。現場の困りごとと、経営として伸ばしたいことの両方を聞いたうえで、最初の一手を選びます。

丁寧なヒアリング、現場を見る、働く人と話す、経営層と話すの4つから、いちばんルーティンで回していて効果が出る、AIに早く簡単に任せられるの2つの基準を通して最初の一手を選ぶ流れの図

選ぶときの基準は2つです。

1つ目は、いちばんルーティンで回していて、効果が出る仕事であること。毎日、毎週、同じ形で繰り返している仕事なら、変わったことを毎日実感できます。

2つ目は、AIに早く、簡単に任せられるのに、効果がある仕事であること。最初の一手に時間がかかりすぎると、「本当に変わるのか」という不安のほうが先に大きくなります。

縦に効果の大きさ、横にAIに任せる難しさをとった4つの区画。効果が大きく簡単な左上が最初の一手、効果が大きく難しい右上が2手目以降で防災点検の報告書はここ、効果が小さい下の2つはついでに進めると後回しを示す図

図の左上、効果が大きく、AIに任せるのも簡単な仕事が、最初の一手です。効果は大きいけれど難しい仕事は、2手目以降に回します。防災点検の報告書は、あとから振り返ると、この右上にありました。

防災点検の現場で、3か月かかった理由

株式会社ウエックスの看板の前に立つ2人
防災設備の点検・保守を行う株式会社WECSを訪問したときの一枚。

防災設備の点検・保守を行う株式会社WECSは、点検の内容を紙のメモに残す現場でした。そのメモから点検報告書を作る仕事を、最初の一手に選びました。点検のたびに必ず発生する仕事で、変われば効果は大きい。1つ目の基準は満たしていました。

難しかったのは、報告書そのものです。点検報告書は国が定めた様式で、中身がかなり複雑です。量も多い。そのうえで、正確さを担保しなければなりません。

最初のネックは、紙のメモをどうやってAIに渡すかでした。メモを写真に撮ってAIへ渡し、読み取るべき箇所は赤字にする。そこから点検事項や不備の内容を文字にして、報告書の下書きをつくる。過去の報告書とメモを大量に読み込ませてパターンを抜き出し、それを正確さとルールの土台にしました。人がやるのは最後のチェックです。現場で点検した内容と合っているかを見て、合っていれば完成です。

ここまでたどり着き、実務で使えるようになるまでに、3か月かかりました。一緒にいろいろなAIを触り、一つの業務をどうすればAIに任せられるかを試行錯誤した3か月です。私が担ったのは、現場の人にとって使いやすい形と、裏側で正確さと実務での使いやすさを担保する仕組みを、現場で一緒に考え抜くことでした。

防災点検の会社の会議室で、社員の方がそれぞれのノートPCでAIを操作し、前方のスクリーンにAIの作業画面が映っている研修の様子
防災点検の会社での研修。社員の方がそれぞれのPCで、同じ操作を進めています。

現場の方からは「メモさえ取れば、写メで済む」と言われました。AIに不慣れだった担当者の方は、いまは毎朝、Claude Codeを立ち上げるところから仕事を始めています。その後、この会社では社員18名にAIを導入しました。この話はAI顧問とはに詳しく書いています。

いまは、1か月目で効果が出るものから始める

防災点検の現場での3か月から学んだのは、最初の一手は「効果が大きい仕事」だけでなく、「早く、簡単に変わる仕事」から選ぶべきだということです。

いまは、たとえば水産加工・鮮魚卸の会社では、もっと簡単なものから着手して、1か月目で効果が出ることを目指しています。受注の内容と確定した目方をLINEで送るだけで、注文票、送り状、納品書、請求書ができる。紙とペンで書き写していた仕事が、目に見えて変わる一手です。

LINEで受注と目方を送ると、1本の注文データから注文票・送り状・納品書・請求書の4つの書類ができることを示す図

最初の一手で「変わった」と実感してもらえると、次の相談が自然に出てきます。そこから、組織全体への導入を進めたり、AI社員を増やしたりと、どんどん広げていきます。初月をなぜ10万円にしているか、続けるかどうかを何で決めるかは、AI顧問の費用に書いています。

1ヶ月目の回し方

計画を立てる(業務の要件定義)、実行する(その場で実物を作る)、確認する(出てきたものを見て直す)、マニュアルに残す(次も同じ品質で)の4つを1業務で回す図

最初の一手を回すときの型は、どの会社でも同じです。まず、計画を立てる。そして実行して、出てきたものを確認する。問題なければ、それを再現するためのマニュアルを残す。

計画は、業務の要件定義です。今日この仕事をAIに渡すなら、何を入力し、何を作り、人がどこを確認するかを先に書く。実行は、その場で実物を作ることです。確認は、出てきたものを見て直すこと。マニュアルは、次も同じ品質で再現できるように残すことです。

定例と定例のあいだは、お客様が実際の仕事で使ってみます。こちらは、止まったところや直すところを調べ、次の定例までに作り直します。使ってみて、直して、また使う。この往復が、1ヶ月目の中身です。

1ヶ月目の終わりに残るもの

1ヶ月目に残るのは、きれいな計画書ではありません。残るのは、次のようなものです。

  • 最初の一手が回る仕組み。いつものチャットから頼めるAI社員や、社員が自分で使うAIの環境
  • その仕事の業務要件定義。何を入力し、何を作り、人がどこを確認するか
  • 次も同じように頼める手順のマニュアル
  • 人が必ず確認する箇所と、その基準
  • 次に手をつける仕事の候補

防災点検の会社の場合なら、写真の渡し方、赤字の指定、報告書の下書き、人が見る箇所、次も同じように頼める手順。形は会社ごとに違いますが、1ヶ月目の終わりに、実際の仕事で使ったものが手元に残ることは変わりません。

自社で「最初の一手」を探すときの問い

相談の前に、次の問いに答えてみてください。答えが出た仕事が、最初の一手の候補です。

  • 毎日、または毎週、同じ形で繰り返している仕事は何か
  • その仕事の入力(メモ、写真、注文など)と、完成品(報告書、書類など)を1組、手元に出せるか
  • その仕事が変わったら、誰が楽になり、何に手が回るようになるか
  • 様式が細かく決まっていて、正確さを担保するのが難しい仕事ではないか。そうなら、2手目以降に回す
  • 外に出す前に、人が確かめられるか

答えを書いた紙と、その仕事の実物1組を持って相談してください。最初の定例で、そこから一緒に選びます。1ヶ月目のあと、2か月目・3か月目にどう広げていくかは、AI顧問の最初の90日に書いています。


取材・資料:2026年9月9日・16日・25日・28日の赤堀亘への取材と、顧問セッションの記録をもとに構成しました。株式会社WECSは許諾の範囲で社名を掲載し、水産加工・鮮魚卸の会社は業種だけを記載しています。料金と条件は2026年9月20日に確定したものです。

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