案件の経緯や難所の対処法がまとまっていても、新しい担当者が自分で仕事を進められるとは限らない。「何をするか」が書かれていても、「ここまで自分で決めてよいか」が分からないからだ。

赤堀亘
執筆・監修 AiWiLL株式会社 代表取締役 赤堀亘

日本テレビ・Bitget等でのB2Bマーケティング実務を経て、2023年にSHIFT AI創業へ参画。コミュニティ・スクール責任者として2年で3万人規模へのグロースを主導。2026年、静岡県熱海市でAiWiLL株式会社を創業。生成AI顧問「WiLLAGENT」として、防災設備・不動産管理・旅館・飲食など現場型の中小企業に入り、売り上げ向上に寄与するマーケティングや営業施策をどうAIで質を上げ、数を増やすかを一緒に考え抜き、人手不足のなか報告書・見積・マニュアルづくりといった実務をいかにAIで省くかといった、AIを使った事業づくりを伴走支援している。生成AI研修・Eラーニングの監修も担当。企画したイベント・ウェビナーは累計112件、参加者は1万人超。

AiWiLLは、不動産会社の代表が持つ判断をスタッフへ引き継ぐ準備として、録音から作った知識を見直した。そのうえで、記録だけでは分からない部分をAIが本人に一問ずつ尋ねる質問集を用意した。資料の不足を、現場で答えられない問いとして見つけた記録である。

過去の難しい案件と、毎日の判断は違う

録音には、重要な会議や難しい案件が残りやすい。一方、普段当たり前にしている判断は、会議で説明されないこともある。準備資料では、決裁や相談の範囲、日常業務の順、文章のトーン、避ける行為、協力先の使い分け、年間の定例などを、追加で聞くテーマにしていた。

最初に扱うテーマは、決めてよい範囲だった。代表が不在のときに止めるのか、どこまで進めるのか。相手から条件の変更を求められたときに、その場で返してよいか。この答えがないまま手順だけを渡しても、結局すべてが代表への確認に戻ってしまう。

質問集は、望ましいルールをAIが勝手に考えるものではない。以前に勝手に決められて困った場面と、逆に自分で進めてよかった場面の両方を尋ねる構成だった。境目を具体例から探るためである。

曖昧な答えを、想像で補完しない

同梱された質問集の指示では、一度に多くを聞かず、答えが曖昧なら具体的な場面を追加で尋ねる。回答後は、決められた記録へ反映し、新しい記録が必要な場合は先に提案する形になっている。

この順番なら、「状況による」という回答を、AIが一般的な規則へ置き換える前に止まれる。どんな状況か、誰に相談するか、判断に必要な材料は何かを本人に確かめる。インタビューの目的は、きれいな言葉を引き出すことより、次の人が迷う場所を具体的にすることだった。

質問集の完成と、回答の確定は分けて残す

今回確認できたのは、進行ガイドと、共有用の一式に入っている質問集である。後の進行資料には最初のテーマを実施したという記述がある一方、取得できた質問集には未実施の状態が残り、確定した回答本文は見つからなかった。

そのため、この現場録では「決裁ルールが完成し、自動で判断できるようになった」とは書かない。どの不足を見つけ、どんな問いで本人に聞く準備をしたかまでを成果として扱っている。

知識がたくさんあるのに引き継ぎが進まないとき、追加すべきものは別の長いマニュアルとは限らない。現場で止まる一問を見つけ、本人の具体的な判断へ戻る。この質問集は、そのために用意した道具だった。

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