営業メールの下書きを、過去の勝ちメールから作る

営業メールはゼロから書くな。お手本と今回の材料

営業メールをAIに書かせた人の顔は、だいたい同じです。数十秒で整った文面が出る。敬語も間違っていない。「ご多忙のところ恐れ入ります」「ご検討のほど何卒よろしくお願いいたします」——どこかで読んだことがある。自分の会社の声ではない。相手の商談の温度でもない。どこの会社が送っても成立するメール。私は生成AI顧問として累計約15社、研修や講座を含めると30社超の会社を支援してきましたが、営業部門のAI相談は、提案書の薄さと同じくらいの頻度で、この「誰のメールでもある文面」から始まります。

先に結論を書きます。ゼロから書かせると、どこの会社のメールにもなります。必要なのは、過去に実際に通ったメールのお手本と、今回だけの材料です。そして送信してよいかどうかは、最後まで人間が握ります。提案書の下敷きの作り方は別の記事に譲ります。この記事は、メール1通の型です。宛先、目的、お手本、禁則、確認欄。この5つが揃った依頼だけが、営業メールの仕事になります。


赤堀亘
執筆・監修 AiWiLL株式会社 代表取締役 赤堀亘

日本テレビ・Bitget等でのB2Bマーケティング実務を経て、2023年にSHIFT AI創業へ参画。コミュニティ・スクール責任者として2年で3万人規模へのグロースを主導。2026年、静岡県熱海市でAiWiLL株式会社を創業。生成AI顧問「WiLLAGENT」として、防災設備・不動産管理・旅館・飲食など現場型の中小企業に入り、売り上げ向上に寄与するマーケティングや営業施策をどうAIで質を上げ、数を増やすかを一緒に考え抜き、人手不足のなか報告書・見積・マニュアルづくりといった実務をいかにAIで省くかといった、AIを使った事業づくりを伴走支援している。生成AI研修・Eラーニングの監修も担当。企画したイベント・ウェビナーは累計112件、参加者は1万人超。

AIエージェント・新規事業リサーチ・マーケティングの実践セミナー3本の本編と、WiLLAGENTのサービス説明PDFを、無料の資料セットとして公開しています。→ 無料資料セットを受け取る

目次

ゼロから書かせると、どこの会社のメールにもなる

理由は単純です。何も渡さずに「フォローメールを書いて」と頼んだとき、AIが参照しているのは、世の中の平均的な営業メールです。平均は、失礼がなく、特徴もなく、相手のカレンダーに残らない。悪いのはAIでも、あなたの文章力でもありません。読むものを渡していない、それだけです。

営業メールで差がつく場所は、名文ではありません。件名の長さ、最初の2行で何を言うか、前回の相手の言葉を拾うか、次の行動が一つに絞れているか、借り物ではなく自社の温度で終われるか。エースの送信箱には、その会社の勝ち方が残っています。世界中のどのAIも、その送信箱は学習していません。社外に出ていないからです。

これは、顧問先を眺めての感想ではありません。私自身、顧問先へ毎週送っている近況メッセージの下書きを、AIに任せています。最初にAIへ渡したのは、書き方の指示ではなく、過去に相手から反応が返ってきた自分のメッセージでした。あれを渡していなければ、私の文面も、失礼がなく特徴もない平均に沈んでいたはずです。

私の方法論では、コンテキストはプロンプトより桁違いに効きます。指示文を磨く前に、読ませるメールを選ぶ。この順番を、営業メールでも譲りません。「いい感じのフォローを書いて」は相談です。相談には、平均が返ってきます。仕事の依頼にするなら、お手本と今回の材料と、やってはいけないことを先に渡します。書籍『ChatGPTを、「AI社員」に育てる方法』第3章で、チャットAIへの相談とAIエージェントへの仕事の依頼を分けたのは、この差を言葉にするためでした。

観点 ゼロから書かせる 勝ちメール+今回の材料
出だし ご多忙のところ恐れ入ります 前回の相手の言葉、または約束した日付
件名 ご提案の件/ご挨拶 相手が開く理由が1つ入っている
長さ 丁寧さのために長くなる お手本の長さに寄る
次の行動 何卒よろしく、で終わる 候補日時か、返事の要否が1つ
自社らしさ どこの会社でも成立する 通ったメールの温度が残る
修正量 ほぼ全部書き直す 今回固有の数字と固有名詞に集中できる
事故の型 薄い お手本の社名や条件が混ざる(後述)
お手本、今回の材料、下書きの流れ
お手本と今回の材料から下書きする。ゼロからは書かない

右列の事故——お手本の社名が残る——は、ゼロから書かせたときより性質が悪いです。薄いメールは無視されます。混ざったメールは、相手の信頼を削ります。だからお手本を渡す運用では、送信前の確認欄が必須になります。楽をするためにAIを入れるのではなく、薄さを消すために材料を渡し、混入を止めるために人が送る。この二段です。

提案書の記事と、この記事は隣の部屋

過去の勝ちパターンを読ませて新しい文書を書く、という構造は、提案書でもメールでも同じです。だからこそ、同じ話を二度書くと両方薄くなります。提案書側——勝った提案を何本置くか、勝因メモ、フォルダの分け方——は提案書をAIで作る記事にあります。あちらを読んだ方は、本記事で提案の仕込みを繰り返さないでください。こちらはメール1通です。

分ける理由は、成果物の単位が違うからです。提案書は相手の机に残る資料です。メールは、相手の受信箱で数秒で判断される文書です。残る資料は構成が勝負で、消える文書は件名と最初の2行と、次に何をしてほしいかが勝負です。同じ「下敷き」という言葉で雑に扱うと、提案書の丁寧さがメールに流れ込み、読む前に閉じられます。私は顧問先でも、提案用の机とメール用の机を分けます。

広報の文面とも違います。1つの母体から複数媒体へ展開する話は1人広報の記事にあります。あちらは「濃い素材を変換する」仕事です。営業メールは、変換ではなく相手1社への1通です。母体を使い回した営業メールは、個別の手紙の顔をした一斉送信になります。原料が違う、とだけ覚えてリンクを辿ってください。

「勝ちメール」とは、名文ではなく、次が起きたメール

お手本に選ぶのは、「よく書けているメール」ではありません。次が起きたメールです。私の現場での定義は、次のいずれかです。

  • 返信が来た
  • 打ち合わせの候補が返ってきた
  • 資料を送ってほしい、と相手から言われた
  • 決裁者を紹介された
  • 失注のあと、別件で声がかかった

先に触れた毎週のメッセージを、もう少し具体に書きます。私は顧問先の各社へ、毎週金曜、近況ヒアリングを兼ねたメッセージを送っています。文面は4ブロックの定型です。AIの直近アップデート、いま使えるTips、こちらの近況、相手へのヒアリング。この型の出どころは、過去に送って相手から反応が返ってきた自分の通です。名文だから残したのではありません。返事が来たから残しました。いまはこの型と各社の文脈をAIに渡して会社ごとの下書きを作らせ、私が読んで、私が送っています。ヒアリングに返ってきた一言が、次のセッションの入り口になります。この記事に書いている運用は、私が毎週やっていることの言語化です。

値が下がったから通ったメール、相手が最初から買う気だったメールは、外します。文章の勝ちではなく、取引条件の勝ちだからです。逆に、短くて素っ気なくても次が起きているメールは残します。営業チームが「丁寧さ」で選ぶと、長いお手本ばかり集まり、AIは長さを正解だと学びます。長さは業種と相手で違います。正解は、自社で次が起きた長さです。

何通置くか。私の実感では、目的別に3通前後です。初回、打ち合わせ後のフォロー、見積や資料を送ったあとの確認、音沙汰がないときのリマインド、失注後のお礼。全部を一度に集めなくていい。いま一番詰まっている目的を1つ選び、その勝ちメールを3通置く。1通だけだと、その相手専用の冗談まで写します。10通をラベルなしで置くと、平均化が始まります。提案書の本数論をここへコピーしないでください。メールは短い分、混ざると目立ちます。少なく、目的別に、が安全です。

1通ごとに、勝因を3行で足します。長文の分析は要りません。「件名に日付を入れたら開かれた」「最初の行で前回の発言を拾ったら返信が来た」「候補日時を2つに絞ったら決まった」。担当者の記憶でいい。この3行が無いお手本は、AIにとって「ただの過去メール」です。ただの過去メールを読ませると、古い部署名や、もう売っていないプランまで丁寧に再生します。

メール1通の型——宛先・目的・お手本・禁則・確認欄

ここがこの記事の本体です。営業メールをAIに頼むときの最小単位を、1通分の型にします。案件フォルダにこの5欄があれば、依頼は仕事になります。足りない欄がある依頼は、相談のままです。

書くこと 空欄だと起きること
宛先 会社名、担当者名、関係(初回/既存/紹介)、CCの有無 敬称と温度がずれる。紹介者の名前が落ちる
目的 この1通で起きてほしいこと。1つだけ 挨拶と提案と日程調整が同居する
お手本 同じ目的で次が起きたメール2〜3通と、勝因3行 平均的な丁寧さになる
今回の材料 前回の議事、相手の発言、送った資料、約束した日付 一般論の課題から書き始める
禁則 書いてはいけない価格、未公開、他社名、煽り お手本の条件や、まだ言えない数字が混ざる
確認欄 人が送る前に見る項目。送信可否は最後の1行 下書きがそのまま送信箱に入る

目的を1つにする、がいちばん効きます。私の見聞きする範囲では、薄い営業メールの大半は、1通に用事を詰めすぎています。お礼と、追加資料と、次の日程と、料金の補足。読む側は、何に返事をすればいいか分からず、後回しにします。AIに頼むと、この詰め込みがさらに丁寧になります。丁寧な詰め込みは、迷惑メールの上品な版です。目的が「候補日時を2つ出す」なら、それ以外は削る、と禁則に書きます。

宛先欄は、礼儀のためだけではありません。紹介経由なのか、展示会のあとなのか、既存の担当変更なのかで、最初の2行が変わります。宛先が「ご担当者様」のまま依頼すると、お手本がどれだけ良くても、初対面の温度に戻ります。

埋まっている型がどう見えるか、打ち合わせ後の1通だけ実物の骨を置きます。会社名は仮です。

宛先:B社・田中様/初回打ち合わせ後/CCなし
目的:来週の候補を2つ出し、どちらがよいか返事をもらう
お手本:打ち合わせ後に候補が返ってきた3通。勝因は「件名に日付」「最初の行で相手の言葉」「候補は2つまで」
今回の材料:相手が「来週中に社内で共有したい」と言った。資料は当日渡済み。価格はまだ出していない
禁則:価格に触れない。お手本元の社名を出さない。お礼のあとに提案段落を足さない
確認欄:未チェックのまま下書きを置く。送信は人が決める

この骨があれば、出てくる下書きは「先日はありがとうございました。つきましては弊社の強みを改めて…」から始まりにくくなります。始まりは、相手が言った「来週中に社内で共有したい」です。終わりは、火曜午後か水曜午前か、です。用件が1つなので、読んだ人が返事を書けます。これが1通の型の効き方です。骨が無い依頼は、お礼と強みと資料の再掲と「またご連絡します」で終わり、返事の手が止まります。

下書きの完成形も置きます。ただしB社の続きではなく、実物に寄せます。私が毎週送っている顧問先向けメッセージ——先ほどの4ブロックの型——をAIに渡すと、下書きはおよそ次の形で返ってきます。宛先と社名を伏せた出力例です。

件名案(3つ・人が選ぶ)
1. 今週のAIと近況です
2. 8月◯週の定例便|試す価値のあるアップデート1件
3. 「議事録の整理が重い」の続き——今週のTips

本文の下書き(出力例)
◯◯さん
今週ぶんの近況とAIの動きをお送りします。
まずアップデート。◯◯(ツール名)に、会議メモをそのまま要約に落とせる機能が入りました。御社の議事録づくりに、そのまま効きます。
Tipsを1つ。前回のセッションで出た「議事録の整理が重い」は、文字起こしを議題ごとに切ってから要約させると、確認が1回で済みます。
こちらの近況です。来週のセッションでお見せしたい資料を仕込んでいます。
最後にヒアリングです。その後、先週決めた運用は回っていますか。
詰まっている箇所があれば、一言だけ返してください。次回のセッションで机に載せます。
返事は一言で構いません。

骨との対応はこうです。目的は1つ、近況の返事をもらう。お手本は、過去に反応が返ってきた自分の通。今回の材料は、その会社の直近セッションと今週のAIの動き。売り込みの段落は無い。件名は3案から人が選び、送信も人。欄の並びは、B社の骨と同じです。

初回・フォロー・リマインドは、別の仕事

「営業メール」で一括りにすると、お手本が混ざります。目的ごとに机を分けるほうが、短い文書では効きます。

種類 1通の目的 お手本に残すもの 人が残す判断
初回 返事か、短い通話の了承 自己紹介の長さ、理由の1行 今送る相手か
打ち合わせ後 約束の確認と、次の日付 相手の発言の拾い方 議事の事実関係
資料・見積送付 開いてほしい場所を1つ示す 添付の案内の短さ 金額・条件の最終確認
リマインド 負担の少ない返事の仕方を出す 催促に見えない件名 送る間隔と、送ってよいか
失注後 関係を切らない。売らない 売り直しを我慢した文面 今は何も売らない判断
紹介依頼 紹介してほしい人の型を1つ 相手が転送しやすい短さ 頼んでよい関係か
クレーム隣接 事実確認の日程だけ取る (原則、お手本化しない) 人が最初から書く

リマインドは、需要の多い検索語です。だからこそ、危ない。音沙汰がない相手へAIに「フォローして」と頼むと、熱量が一段上がった文が来ます。熱量は、相手の沈黙を責める方向へ寄りやすい。勝ちメールとして残すリマインドは、短いものです。前回の資料の場所、返事の選択肢を2つ、今回見送るならそれで構わない、という逃げ道。逃げ道があるリマインドだけが、次の仕事になります。

クレームに隣接するメールは、型に入れません。謝罪の温度は人の仕事です。下書きを作らせること自体を禁則にしてください。型がないと不安な会社ほど、ここを型にしたくなります。型にした瞬間、事故の文章が量産されます。

件名だけ切り出します。本文をいくら直しても、開かれなければ仕事になっていません。私がお手本の勝因でいちばんよく聞くのは、件名の話です。日付が入っている。相手の社内行事や前回のテーマが入っている。「ご提案」「ご挨拶」「ご連絡」だけではない。AIに件名を1つだけ出させると、丁寧な抽象に戻ります。3つ出させて、人が選ぶ。3つのうち1つは短く、1つは日付入り、1つは相手の言葉入り、と禁則側に書いておくと、選びやすくなります。

展示会やウェビナーのあと一斉に送る文面は、個別の営業メールと机を分けてください。書籍第3章でも、ウェビナー業務の成果物として開催後のフォローメールを挙げています。あちらは「参加者全体への1通」、こちらは「この人への1通」です。参加者全体のフォローをお手本に、個別の決裁者へ送ると、個別の顔をした一斉送信になります。名簿を回して同じ型で送るなら、目的は「資料の場所を渡す」まで。個別の日程調整は、別の1通です。

お手本の集め方——受信箱を、丸ごと渡さない

やりがちな失敗は、OutlookやGmailの出力をフォルダに捨てて「この中からいい感じに」と頼むことです。入口が広すぎます。関係のない顧客、採用、社内連絡、個人の携帯番号、過去の値引き条件が、同じ山に入ります。入口に入れすぎた事故は、出口をいくら締めても残りやすい。書籍第3章の言い方を借りれば、事故は入口と出口の二点から起きます。

集め方は、人が選びます。

  1. いま詰まっている目的を1つ決める(例: 打ち合わせ後のフォロー)
  2. その目的で、次が起きたメールを3通、送信箱から出す
  3. 顧客名の扱いに迷う通は、社名を落とすか、お手本から外す
  4. 1通ごとに勝因を3行書く
  5. メール用の机(フォルダ)に、目的名で置く

全社のメールを学習させるプロジェクトにしないでください。それは情報管理の案件であって、今週末のフォローを速くする仕事ではありません。学習に使われない設定、個人情報と認証情報を置かない、必要な通だけを見せる。この線はセキュリティの記事と同じです。社内ルールとして「社外に出るメールは下書きまで」と1行書くなら、生成AIの社内ルール記事のひな形を使ってください。本記事では条文を再掲しません。送信ボタンが人の手にあることだけ、繰り返します。

仕事としての依頼——「いい感じのフォロー」を禁止する

相談の依頼は、こうです。「先日お会いしたA社へ、フォローメールをいい感じで書いて」。仕事の依頼は、1通の型を埋めたものです。指示文の技巧ではありません。渡す順番です。

# 営業メールの下書き(送信しない)

## 宛先
- 会社: A社 / 担当: ◯◯様 / 関係: 初回打ち合わせ後 / CCなし

## 目的(1つ)
- 来週の候補日時を2つ出し、どちらがよいか返事をもらう

## お手本
- 00_お手本/打ち合わせ後/ の3通と、各3行の勝因

## 今回の材料
- 02_案件/A社/ の議事メモ(相手の発言を優先)
- 送付済み資料のファイル名
- 約束した「来週中に日程調整」

## 禁則
- 価格・値引きに触れない
- お手本元の社名・人名を出さない
- 売り込む段落を足さない
- 件名を「ご挨拶」「ご提案」にしない

## 作るもの
- 件名案 3つ
- 本文の下書き 1通
- 確認欄(未チェックのまま)
- 保存先: 02_案件/A社/メール_下書き.md

## 守ること
- 送信しない
- 分からない固有名詞は【要確認】
- 目的以外の用事を足さない

件名を3つ出させるのは、本文より件名で勝負が決まるからです。本文がよくても、件名が「ご提案の件」なら開かれない。3つの中から人が選ぶ。ここも、人が決める仕事です。

この依頼を毎回手で書かなくていい。型をファイルにして、宛先と今回の材料だけ変える。うまくいかないときに直すのは、たいていお手本の選び方か、目的が2つ以上あるかです。依頼文を長くしても、平均からは出られません。プロンプト集を作って翌月には開かなくなる、という一般化した観察は、営業メールでもそのまま起きます。

送信可否は人間——出口を、便利さで開けない

下書きが速くなると、次に欲しくなるのが自動送信です。予定時刻に送る、開封を追う、返信がなければ次を送る。便利です。営業メールでは、私はそこを閉じます。理由は、メールが契約や関係の手前にあるからです。間違った社名、間違った金額の残像、まだ言えない納期、紹介者の名前落ち。これらは下書きのうちは社内の問題で、送信した瞬間に相手の問題になります。

確認欄は、心構えではなく項目です。

  1. 宛先の会社名・担当者名・敬称は、今回の相手か
  2. お手本元の社名・人名・案件名が残っていないか
  3. 価格・納期・契約条件が、書いてよい範囲か
  4. 相手の発言や日付の事実は、議事と一致しているか
  5. 目的は1つか。返事の仕方が一通で分かるか
  6. CC、添付、件名は、送る内容と一致しているか
  7. 今送ってよいか。沈黙を責めていないか
  8. 送信してよいか——人が決める

8番が空のまま送ってはいけない、をルールの1行にします。AIがチェックを付ける運用にはしません。付ける側と送る側が同じ機械になると、確認が儀式になります。人が印を付け、人が送る。入口でお手本を選び、出口で送信を握る。間で働くAIがどれだけ速くなっても、この二点は手放しません。

セッションの完了報告も、同じ運用です。顧問のセッションが終わるたびに、支援内容の共有と次回の提案をセットにした報告のメッセージを送っています。定型は私のもの、下書きはAI、読んで送るのは私。正直に書くと、下書きの精度が上がるほど、確認が形式に見えてきます。それでも全文を読んでから送ります。相手に届くのは、AIの下書きではなく、私の名前のメッセージだからです。8番の欄は、この誘惑を知っている人のための欄です。

最初の週に起きがちなのは、下書きの速さに安心して、確認欄の上から3つ——宛先、お手本の固有名詞、価格——だけ見て送ることです。残りの事実関係と「今送ってよいか」が、いちばん事故ります。相手が「来月以降で」と言った案件に、翌週の候補を出す。お手本の値引き幅が、今回の本文に残る。どちらも、丁寧な日本語のまま起きます。速さは、確認欄へ早く着くための速さです。送る速さをKPIにしないでください。

ツールの実費は、ChatGPTやClaudeの有料プランの公表価格帯(2026年8月時点)でいえば、1人あたり月3,000円〜1万円程度です。メール専用の営業支援AIを最初から買う必要はありません。先に揃えるのは、目的別の勝ちメール3通と、1通の型です。専用ツールは、型が社内で回ってからでも間に合います。先にツールを買うと、自社の温度ではなく、その製品の平均温度で送ることになります。

やってはいけない6つ

NG 何が起きるか 向き
ゼロから書かせる どこの会社のメールにもなる 勝ちメールを先に置く
受信箱を丸ごと渡す 入口が広がり、混入と漏えいが同時に起きる 目的別に人が3通選ぶ
1通に用事を詰める 返事の仕方が分からず後回しになる 目的は1つ
リマインドの熱量を上げる 沈黙を責める文面になる 短い選択肢と逃げ道
下書きをそのまま送る 社名混入や事実誤認が相手へ行く 確認欄を人が潰す
自動送信までつなぐ 出口が開き、事故が社外で完了する 送信ボタンは人

6つのうち、現場でいちばん多いのは1番と3番です。ゼロから書かせて薄い、と嘆いたあと、指示に「もっと熱く、もっと具体的に、でも簡潔に」と足す。矛盾した相談には、矛盾した平均が返ります。熱さはお手本からコピーし、具体は今回の材料から取り、簡潔さは目的を1つにすることでしか出ません。

メール担当をAI社員にするなら、机を分ける

1通の型が回り始めたら、それを社員定義に落とせます。職務は「営業メールの下書き」。読むものはお手本と今回の材料。成果物は下書きと確認欄。やってはいけないことは送信と、価格の創作。人間が確認する点は、上の8項目。キャラ設定は不要です。この置き方の全体は「AI社員」の作り方にあります。本記事は、そのうちメール1通に切った実務です。

横展開したくなる気持ちは分かります。提案書、見積の送付文、セミナー後のフォロー。ただし机は分けてください。提案の机、メールの机、広報の机。同じ「文章」でも、勝ち方の単位が違います。混ぜたフォルダのAIは、提案の丁寧さでリマインドを書き、広報のキャッチで初回メールを書きます。どちらも、次が起きない文面です。

攻めの手数の話も、メールでは具体になります。送れていないフォロー、出せていない初回、書けていない失注後。人手を足さずに通数だけ外注すると、通ごとに費用が消え、勝ち方も残りません。型とお手本が社内にある状態は、通数を増やしても温度が落ちにくい。時間削減は補助です。主軸は、打てていなかった1通が、自社の声で出せることです。

よくある質問

Q1. 勝ちメールが3通もありません。

次が起きた1通と、自分で「次はこう送りたい」と思う1通と、失敗した1通(長すぎた、売りすぎた)の混成で始めてください。失敗した通には、勝因の代わりに「何が余計だったか」を3行添える。避け方のお手本になります。創業直後で送信箱が空なら、まず人が3通送り、その結果から机を作ります。空の机に平均を置いても、自社の声は増えません。

Q2. 英語や丁寧語のミスを直すだけでも価値はありますか?

あります。ただしそれは校正であって、営業メールの仕事ではありません。校正だけならお手本は不要です。次を起こす文面にしたいなら、校正の前にお手本と目的を置いてください。丁寧語が正しい平均メールは、すでに世の中に足りています。

Q3. 一斉配信のメルマガにも使えますか?

構造は近いですが、机は分けます。メルマガは1対多、営業メールは1対1です。お手本も違います。開封された配信と、返信が来た個別メールを混ぜない。1対多の設計は、1人広報の記事側の話に寄せてください。

Q4. 商談の議事録が雑でも動きますか?

雑な議事のまま頼むと、AIは穴を一般論で埋めます。埋められた一般論が、相手の発言として返ってきます。議事が薄いときは、下書きより先に、相手が言った言葉を3つだけ書き出す。それが今回の材料になります。議事そのものを仕事にする話は、本記事の外です。

Q5. 送信まで自動化してはいけませんか?

社外に出るメールでは、いけません。社内の下書き共有や、自分宛のリマインドなら話は別です。相手の名前と条件が入る文書の出口は、人が握ります。便利さで出口を開けると、事故の完了だけが速くなります。

Q6. 顧客名の入った過去メールを読ませて大丈夫ですか?

学習オフを前提に、必要な通だけを、迷う通はマスキングして渡します。係争中、秘密保持の厳しい相手、個人のプライベートな事情が書いてある通は、お手本にしません。全受信箱を教材にする発想を、最初に捨ててください。

Q7. 営業チーム全員で使うには?

まず一人の目的で3通回す。型と確認欄が固まったら共有する。各自にコピーを配ると、古いお手本が残ります。共有の仕組みはコンテキストのチーム共有の記事側の話で、本記事では「コピーを配って終わりにしない」だけ守ってください。最初から全チームの全目的を作ると、お手本選びが会議になります。会議になったお手本は、更新されません。

Q8. ChatGPTの画面に貼るだけで十分ですか?

1通試すなら十分です。残すなら、お手本と型をフォルダに置いて、仕事として頼める形にしてください。画面に貼ったお手本は、その会話が終わると職場が消えます。消える職場では、勝ち方が会社に残りません。

持ち帰り——メール1通の型

印刷して、案件の横に置いてください。空欄を埋めてからAIに渡す。埋まっていない欄があるうちは、まだ相談です。

【営業メール 1通の型】

宛先
- 会社:
- 担当:
- 関係(初回 / 既存 / 紹介 / その他):
- CC:

目的(1つだけ)
-

お手本(同じ目的で次が起きた通)
- 通1:
  勝因3行:
- 通2:
  勝因3行:
- 通3:
  勝因3行:

今回の材料
- 相手の発言:
- 日付・約束:
- 送付済みのもの:
- 書いてはいけないこと以外の、書いてよい事実:

禁則
- [ ] 価格・値引きに触れない
- [ ] お手本元の社名・人名を出さない
- [ ] 目的以外の用事を足さない
- [ ] その他:

確認欄(人が印を付ける)
- [ ] 宛先・敬称は今回の相手か
- [ ] お手本の固有名詞が残っていないか
- [ ] 価格・納期は書いてよい範囲か
- [ ] 事実は議事と一致しているか
- [ ] 目的は1つか
- [ ] 件名・添付・CCは一致しているか
- [ ] 今送ってよいか
- [ ] 送信してよいか(人が決める)

保存先:
送信しない。下書きまで。

この1枚が埋まっている依頼と、「フォローしておいて」の一言は、同じAIでも別の社員に仕事を振っているのと同じです。埋まらない欄は、AIの能力不足ではなく、その案件の材料不足です。材料が無いなら、下書きを頼む前に、相手の発言を3つ思い出すところから戻ってください。

まとめ——平均の丁寧さは、もう足りている

営業メールをゼロから書かせると、どこの会社のメールにもなります。通ったメールをお手本にし、今回の材料を渡し、目的を1つにし、禁則を書き、確認欄を人が潰し、送信ボタンは人が押す。これだけです。提案書の仕込みとも、広報の展開とも、机を分けます。名文は要りません。次が起きた長さと、相手の言葉と、返事の仕方だけが要ります。

文章力は借りられます。自社の送信箱に残っている勝ち方は、借りられません。そこをフォルダに移した会社から、フォローの通数が、平均の丁寧さではなく自社の声で増えていきます。まず1目的、3通、1通の型。うまくいかなければ、指示を足す前に、お手本を見直してください。

お手本の置き方を会社の仕組みにする話は、AI顧問とはにあります。

「自社なら何から始めるべきか」を見つけたい方へ

AI顧問「WiLLAGENT」は、AIを「知る」で終わらせず、会社の仕事で使える状態まで一緒に動かす伴走型AI顧問です。現場に行き、一緒に作り、社内に残す。経営・営業・マーケティング・業務改善まで、現場の課題から優先順位を決めて進めます。

実務での使いどころを学べるAI実践セミナー3本の本編アーカイブと、3か月伴走の内容・支援領域・料金・FAQをまとめたサービス説明PDFを、無料の資料セットとして受け取れます。

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次