1人広報のAI活用|1つの素材を5つの媒体に展開する仕組み【自社の実物・指示文つき】

1つの素材を5つの媒体へ——1本の収録から5本のベルトコンベアで成果物が流れるイラスト

中小企業で「広報専任のチームがあります」という会社に、私はほとんど出会ったことがありません。生成AI顧問として累計15社、研修・講座を含めて30社超を支援してきた範囲でいえば、発信の担当は良くて専任1人。実際には総務や営業事務との兼任、あるいは「社長が思い立ったときにやる」がいちばん多い形です。一方で、やったほうがいいとされる媒体は増える一方です。X、Instagram、YouTube、ショート動画、note、Podcast、自社ブログ、メルマガ——。全部に別々のコンテンツを作ろうとして、数週間で全部が止まる。この相談を、私は何度も受けてきました。

先に結論を書きます。1人広報が止まるのは、頑張りや企画力が足りないからではなく、「媒体の数だけコンテンツを作る」という設計そのものが間違っているからです。正解は、作る回数を増やすことではなく、1つの濃い素材——私は「母体」と呼んでいます——から複数の媒体へ展開すること。私の会社では、YouTube番組の収録1本を母体に、ショート動画2〜3本・X投稿数本・Podcast1本・note1本・HP記事0〜1本という展開を毎週回しています。合計すれば、収録1本から最大9本前後のコンテンツです。この記事には、その実物の構成と、文字起こしを媒体別に変換する指示文、1人で回すための週次設計、持ち帰り用の設計シートまで、自社でやっていることをそのまま置いていきます。


赤堀亘
執筆・監修 AiWiLL株式会社 代表取締役 赤堀亘

日本テレビ・Bitget等でのB2Bマーケティング実務を経て、2023年にSHIFT AI創業へ参画。コミュニティ・スクール責任者として2年で3万人規模へのグロースを主導。2026年、静岡県熱海市でAiWiLL株式会社を創業。生成AI顧問「WiLLAGENT」として、防災設備・不動産管理・旅館・飲食など現場型の中小企業に入り、売り上げ向上に寄与するマーケティングや営業施策をどうAIで質を上げ、数を増やすかを一緒に考え抜き、人手不足のなか報告書・見積・マニュアルづくりといった実務をいかにAIで省くかといった、AIを使った事業づくりを伴走支援している。生成AI研修・Eラーニングの監修も担当。企画したイベント・ウェビナーは累計112件、参加者は1万人超。

AIエージェント・新規事業リサーチ・マーケティングの実践セミナー3本の本編と、WiLLAGENTのサービス説明PDFを、無料の資料セットとして公開しています。→ 無料資料セットを受け取る

目次

「媒体の数だけ作る」が1人広報を潰す——まず構造の話

最初に、なぜ止まるのかを構造で押さえます。仮に主要な媒体を5つ運用し、それぞれ週3本ずつ投稿するとします。単純な掛け算で週15本。1本ごとに、ネタを考え、作り、投稿し、反応を見る。そして制作そのものより先に、「今日は何を投稿しよう」と考える時間が毎回発生します。兼任の担当者にとって、実はこのネタ出しがいちばん消耗する工程です。通常業務の合間にスマホを開き、他社の投稿を眺めて焦り、結局「今日はいいや」と閉じる——発信はこの繰り返しで静かに止まっていきます。

「媒体ごとに作る」設計と「1つの母体から展開する」設計では、同じ5媒体を運用していても、担当者の毎日がまるで違います。

観点 媒体ごとに作る 母体から展開する
ネタを考える回数 投稿の数だけ(週15回) 週1回(母体のテーマだけ)
コンテンツの源 毎回その場の思いつき 一番濃く語れるテーマ
品質 媒体ごと・日ごとにばらつく 母体の濃さが全媒体に波及する
発信の一貫性 媒体ごとにバラバラの声になる どこで読んでも同じ人の同じ主張
AIの役割 「何か作って」の丸投げ→一般論が返る 変換に徹する→中身は本人の言葉のまま
担当者の状態 常にネタ切れの不安を抱える 録る日以外は確認と投稿だけ
1年続けた先に残るもの 散発的な投稿の山 母体のアーカイブ=会社の知の資産

下の段の設計に切り替えるために必要なのは、追加の人員でも高価なツールでもありません。「何を母体にするか」を決めることと、母体を各媒体へ変換する仕組み——この2つだけです。順番に作っていきます。

発想転換——「一番濃い素材」を母体にして展開する

母体とは、あなたの会社でいちばん情報濃度の高い素材のことです。候補になるのは、番組や動画の収録、セミナーや登壇、顧客向けの説明会、社内勉強会、腰を据えて書いた濃いブログ記事。共通点は、担当者が「投稿のために」ひねり出したものではなく、誰かに向けて本気で語られた・書かれたものであることです。

なぜ濃さにこだわるのか。生成AIは、形の変換は得意でも、中身の濃度を上げることはできないからです。薄い入力から立派な出力を求めると、返ってくるのはどこかで読んだような一般論です。AIの出力の質は、指示文の巧拙よりも渡す原料で決まる——私が顧問先で繰り返し伝えている原則ですが、発信ではそれが特にはっきり出ます。母体が濃ければ、展開されたショート動画にもX投稿にもnoteにも、元の濃さが宿ります。逆もまた同じです。

母体(週1本)

一番濃く語った60〜90分

番組収録・セミナー・登壇・顧客への説明会・濃いブログ

文字起こし(テキスト=すべての展開の原料)

YouTube本編

1本

母体そのもの

ショート動画

2〜3本

1論点だけを独立させる

X投稿

数本

言い切れる一文を磨く

Podcast

1本

本編をそのまま置く

note

1本

話し言葉を読み物へ

HP記事

0〜1本

検索と重なる回だけ

出所:AiWiLL「AI顧問の現場録」の週次運用(2026年7月時点の構成)

図にすると単純ですが、この設計には副次的な効果が2つあります。1つ目は、企画会議が週1回で済むこと。考えるのは「今週は何を語るか」だけになり、「Xに何を投稿するか」「noteに何を書くか」を個別に考える時間は消えます。2つ目は、発信の声が揃うこと。すべての媒体が同じ母体から生まれるので、どの媒体で会社に出会った人にも、同じ人物の同じ主張が届きます。媒体ごとに担当や外注が分かれてトーンがバラバラ——という、よくある事故が構造的に起きなくなります。

なお、「1つの素材を複数の成果物に変える」という思想は、社外向けの発信だけの話ではありません。社内の会議の議事録から提案書・FAQ・マニュアルを生む——という社内素材版の同じ設計を議事録をAIで次の仕事に変える記事で公開しています。あちらは「社内の会話」の多用途化、この記事は「発信コンテンツ」の多媒体展開。原理は同じで、原料が違うだけです。

自社の実物——収録1本が最大9本のコンテンツになるまで

ここからは実物です。私の会社では「AI顧問の現場録」というYouTube番組を運営していて、その収録1本を母体にした展開を毎週回しています。置き場は母体のYouTube本編を含めて6つ、展開先としては5つの媒体。それぞれの変換ルールと合わせて表にします。

媒体 1母体あたり 変換の考え方(何を残し、何を変えるか)
YouTube本編 1本 母体そのもの。編集はしても、話した中身は削りすぎない
ショート動画 2〜3本 「切り抜き」ではなく「1論点の独立」。前後の文脈なしで意味が立つ箇所だけを選ぶ
X投稿 数本 収録の中の「言い切れる一文」を拾って磨く。動画への誘導は最後の1本だけ
Podcast 1本 本編をそのまま音声の聴かれる場所に置く。変換コストほぼゼロ
note 1本 話し言葉を読み物に書き直す。一番手がかかり、一番ストックになる
HP記事(検索向け) 0〜1本 収録テーマが検索意図と重なる回だけ。無理に作らない

ここで再生数や登録者数を並べないのは、隠したいからではなく、それが再現の役に立たないからです。数字は業種と運で大きく振れます。あなたの会社が持ち帰れるのは数字ではなく、この構成と変換ルールのほうです。その上で、表には収まらない私のこだわりを3つ書いておきます。

1つ目は、ショート動画を「切り抜き」と呼ばないことです。盛り上がった箇所を機械的に切り出すのではなく、その60秒だけ見ても論点が完結する箇所を選びます。文脈から切り離されて誤解を生む切り抜きは、認知を増やしても信頼を増やしません。1本につき論点は1つ。これを守るだけで、ショートの質は目に見えて変わります。

2つ目は、Podcastの扱いです。私の運用では、本編の動画をそのままPodcastの場に置いています。音声を別に編集し直すこともしていません。つまり変換コストがほぼゼロの媒体を1つ確保しているわけです。多媒体展開というと全媒体に手をかける印象を持たれますが、実際は「手をかける媒体」と「置くだけの媒体」の濃淡をつけることが、1人で続けるための生命線です。

3つ目は、HP記事が「0〜1本」であることの正直さです。収録は会話の生き物なので、検索キーワードときれいに重なる回もあれば、まったく重ならない回もあります。重ならない回から無理に検索向け記事を作ると、キーワードに寄せる過程で母体の濃さが薄まり、どっちつかずのものができあがる。「0本の週があっていい」と決めてから、運用は格段に楽になりました。目的は全媒体を毎週埋めることではなく、母体の濃さを損なわずに届く場所を増やすことだからです。白状すると、この構成も最初から設計図どおりだったわけではなく、媒体を足したり引いたりしながら今の形に落ち着きました。あなたの会社の最適解も、運用しながらこの表を書き換えて見つけるものだと思ってください。

仕組みの作り方——母体の選定から変換指示文まで4ステップ

STEP1:母体を選ぶ——4つの条件

最初の分かれ道は「何を母体にするか」です。私が使っている条件は4つあります。

  1. 資料を見ずに30分話せるテーマであること。話せる長さは濃度の証明です。台本がないと5分もたないテーマは、まだ母体になりません
  2. 顧客から実際に質問されたことがある内容であること。誰にも聞かれたことのないテーマは、届けたい相手がいない可能性が高い
  3. 2年後にも通用する内容であること。時事ネタを母体にすると、展開したコンテンツごと賞味期限切れになります
  4. 自分の言葉で話せること。書籍や他人の受け売りは、変換の過程で「誰の言葉でもない文章」に劣化します

形式は、録音さえできれば何でも構いません。セミナーでも、社内勉強会でも、顧客への説明でも。1人で話すのが苦手なら、聞き手を立てて質問に答える対談形式が圧倒的に話しやすくなります。私の番組も、聞き手の質問に答える形で収録しています。カメラに向かって1人で語るより、目の前の1人に説明するほうが、言葉は自然に濃くなるからです。

STEP2:文字起こしをテキストで手元に置く——母体の「原料化」

収録した母体は、音声のままではAIの原料になりません。文字起こしして、テキストファイルとして手元に置く。ここまでやって初めて原料です。文字起こしツールの選定基準はほぼ1つで、テキストとして書き出せること。ツールの画面の中でしか読めない文字起こしは、この後の変換に使えません。

書き出したテキストは、「発信素材」フォルダを1つ作って、日付とテーマ名を付けて溜めていきます。中に入れるのは母体の文字起こしと、後述するトーンのお手本(過去投稿)——最小構成はこれだけです。この「AIがいつでも読めるフォルダ」の設計は発信に限らずAI活用全体の土台になる考え方なので、全手順はAI社員の作り方の記事に譲ります。チームで発信素材を共有する段階になったらコンテキストのチーム共有の記事も参考になるはずです。

個人的な話をすると、私はこの文字起こしを読み返す工程がけっこう好きです。話している最中は流れで喋っているので、あとからテキストで眺めると「ここは単体で1本立つ論点だ」という箇所が思いがけず見つかります。展開の設計は、この読み返しの時点で半分終わっています。

STEP3:媒体別の変換指示文——「足さない」縛りが命

原料が揃ったら、媒体別に変換させます。私が実際に使っている形に近い指示文を3つ置いておきます。まずショート動画の台本抽出です。

この収録の文字起こしから、ショート動画(60秒以内)の台本候補を3つ
抽出してください。

- 1本につき論点は1つだけ。複数の話題を詰め込まない
- 収録で実際に話した言葉を軸にする。言っていないことを台本に足さない
- 各候補に「冒頭のつかみ(最初の2秒で言う一文)」を付ける
- 前後の文脈がないと意味が通らない箇所は、候補にしない

次にX投稿。ここでは「1投稿1主張」と「誘導しすぎない」が肝です。

この文字起こしから、X投稿の下書きを5本作ってください。

- 1投稿1主張。140字以内に収める
- 曖昧な語尾にせず言い切る。ただし収録で話した範囲を超えて断定しない
- ハッシュタグは付けない
- 動画への誘導文は最後の1本だけ。残り4本は投稿単体で価値が完結する形に

そしてnote。話し言葉から読み物への書き直しで、変換の中では一番の大工事です。

この文字起こしを、note記事の下書きに書き直してください。

- 相槌・言い直し・脱線は削る。ただし、たとえ話と具体例は必ず残す
- 構成は「結論→理由→具体例→まとめ」に組み替えてよい
- 見出しを3〜5個立てる
- 文体は、別途渡す過去記事のトーンに合わせる
- 書き終えたら「文字起こしに無い内容を足した箇所」を最後に列挙する

3つに共通して入れている縛りが1つあります。「言っていないことを足さない」。社内文書の生成でも同じ縛りを使いますが、発信では重要度がさらに上がります。AIが気を利かせて足した一文は、あなたが言っていない主張が、あなたの名前で世に出るということだからです。展開の本数がいくら増えても、この縛りと、公開前の人間の確認だけは省けません。noteの指示文の最後に「足した箇所を列挙させる」一文を入れているのも、確認を10秒で終わらせるための仕掛けです。

STEP4:トーンの教え方——「私らしく」ではなく過去投稿を渡す

変換で最後に残る問題が文体です。「私らしい文章にして」「柔らかいトーンで」という形容詞の指示は、ほぼ機能しません。機能するのは実物です。

これから渡す過去投稿5本が、私の文体のお手本です。
語尾・一文の長さ・漢字とひらがなのバランス・たとえ話の使い方を観察して、
「この書き手の文体の特徴」を10項目で言語化してください。
以後の下書きはすべて、その10項目に従って書いてください。

過去の投稿やブログから「これは自分の声だ」と思える5本を選んで渡すと、「一文が短い」「体言止めを使わない」「たとえ話は日常の道具から選ぶ」といった特徴リストが返ってきます。以後の変換には、このリストを毎回添える。トーンは形容詞ではなく、お手本と特徴リストで教える——これだけで、いわゆる「AIっぽさ」の大半は消えます。

私自身、このやり方を公開する前にCursorで実演していました。過去投稿を4本、個別ファイルにして渡し、そこから投稿用のプロンプトを生成させ、今回のmemoだけ書いて新規投稿を作る——という4ステップです。結果として「毎回ゼロから文体を説明する」時間が消え、しかもその投稿自体もCursorが書いていた、という循環まで回りました。1人広報でいちばん削りたいのは、媒体ごとのネタ出しではなく「私の声を毎回思い出させる説明コスト」です。お手本ファイルがフォルダに残っている限り、その説明は1回で済みます。同じ型は報告書にも転用できて、過去の報告書を数本読ませて書き方をプロンプト化し、今回の内容だけmemoに書く——これで日報や週報の下書きも一気に出せます。

そして、毎週同じ変換を繰り返していることに気づいたら、指示文を毎回打つのをやめて、手順そのものをファイルに書いてAIに渡す「スキル化」に進んでください。私の会社では、この記事で紹介した変換に限らず、日報・SEO記事・提案資料といった定型仕事を同じ方式でスキル化し、1行の指示で呼び出しています。やり方はスキル化入門の記事で全手順を公開しています。

週次運用の設計——人の仕事は「録る・確認する・押す」の3つ

1人広報の週次運用カレンダー図解。月=母体をつくる、火=文字起こしと確認、水木=媒体別に変換、金=予約投稿

仕組みができたら、あとは回し方です。大原則はひとつ。人間の仕事を「録る・確認する・投稿を押す」の3つに絞ること。作る工程はAIに渡します。1人広報の方にすすめている週次設計はこの形です。

タイミング 工程 人がやること 時間の目安
週の頭 母体を録る 収録・セミナー・勉強会など。週でいちばん濃い時間 60〜90分
同日中 原料化と変換 文字起こしをフォルダへ置き、媒体別の変換指示を出す。下書き一式はAIが作る 10〜15分
週の中盤〜後半 確認と投稿 1日1媒体ずつ下書きを確認して投稿。「足していないか」を原文と照合 1回15〜30分
投稿のついで 数字を見る 反応の良かった論点をメモし、次週の母体テーマに反映 5〜10分

合計すると週2.5〜3.5時間程度に収まる設計です(これは実測の平均ではなく、設計の目安として読んでください)。ただ、時間の絶対値より大事なのは比較のほうです。「5媒体を毎日別々に作る」発想でこの時間に収まることは、まずありません。兼任の担当者が現実に確保できる時間の中で5媒体が動く——この設計にして初めて、1人広報は構造的に成立します。

始め方にも順番があります。初週から6つの置き場を全部埋めようとしないでください。最初は2媒体——顧客が現にいる場所を1つ(XでもInstagramでも)と、ストックが効く場所を1つ(noteか自社ブログ)——から始めて、運用が安定したら1つずつ足す。母体さえ録り続けていれば、後から媒体を足すのは簡単です。過去の母体に遡って展開できるからです。投稿が途切れた週があっても、母体のアーカイブが残っていれば再開できる。「投稿の継続」より「母体の継続」を守る——息切れしないための優先順位はこれです。

やってはいけない3つ——先に失敗を潰しておく

NG1:全媒体に同じ文章をコピペする

展開とコピペは違います。Xに長文の断片を貼る、noteに140字の言い切りを置く——どちらも媒体の文法を無視した「よそから持ってきた文章」で、読者は一瞬で見抜きます。手を抜いた発信は、発信しないより悪い印象を残すことさえあります。展開かコピペかの判定は簡単で、媒体ごとの変換ルールが言語化されているかどうかです。ルールがあれば展開、なければコピペ。STEP3の指示文が、そのまま変換ルールの言語化になっています。

NG2:母体なしでAIに小ネタを量産させる

「AIで投稿を作れば楽になる」と、原料を渡さずに毎日の投稿だけを生成させる運用。私はこれが一番危険だと考えています。最初の1〜2週間は、たしかに楽になった気がします。しかしすぐに、当たり障りのない、誰の言葉でもない投稿が並び始める。読者の立場に立てば当然で、その投稿にはあなたの会社である必然性がどこにもないからです。発信は会社の声です。AIは声を増幅できますが、声そのものにはなれません。浮いた作業時間と引き換えに信頼を削る取引はやめて、まず母体を1本録ってください。

NG3:数字をいっさい見ない

逆に、投げっぱなしで数字を一度も見ない運用も続きません。といっても、分析ダッシュボードを組む必要はありません。見るのは「どの母体(テーマ)が反応されたか」だけで十分です。再生数やいいねの絶対値は業種と運で大きく振れるので、一喜一憂する価値がありません。それより、保存・返信・問い合わせといった濃い反応がどのテーマに付いたかをメモして、次の母体選びに反映する。数字は成績表ではなく、次に何を語るかを教えてくれる材料です。週1回、投稿のついでの5分で足ります。

よくある質問(相談の現場で実際に聞かれる順)

Q1. 収録もセミナーもしていません。母体になる素材がない気がします

「発信のために新しく何かを始める」と考えると重くなりますが、母体はすでに話しているものを録るのが最初の一歩です。営業での商品説明、採用面接で会社について語る時間、社内勉強会、お客様向けの説明会。資料を見ずに30分話している時間が、業務のどこかに必ずあります。相手の許可を取って録音すれば、その日から母体です。

Q2. 社長も社員も、顔出し・声出しはしたくありません

問題ありません。母体は「公開するもの」ではなく「原料」です。収録した音声そのものを出す必要はなく、文字起こしを経由して、X投稿・note・HP記事という文章の媒体だけに展開すればいい。さらに言えば、母体は音声である必要すらありません。腰を据えて書いた濃いブログや、作り込んだ社内資料も立派な母体になります。声を出さない場合、動画系の媒体は使えませんが、文章系の3媒体は十分に回ります。

Q3. 費用はどのくらいかかりますか

文字起こしツールと生成AIを合わせて、私の顧問先の実費でいえば1人あたり月3,000円〜1万円が目安です。この記事の仕組みは、追加の開発費ゼロでその範囲に載ります。動画編集まで内製する場合は編集ツール代が別途かかりますが、文章系の媒体だけならこの金額で完結します。

Q4. AIが書いた文章だと読者に思われませんか

「AIっぽい文章」の正体は、AIを使ったことではなく、原料なしで生成された、誰の言葉でもない文章です。母体方式では、中身はすべてあなたが実際に話した言葉が原料で、AIがやるのは形の変換だけ。さらにSTEP4のお手本方式でトーンを教え、公開前に人間が確認する。この3段構えなら、むしろ「その人の声」が薄まらずに全媒体へ届きます。

Q5. 媒体はどれから始めるべきですか

2つから始めてください。1つは顧客が現にいる場所。BtoBならX、地域のお客様相手ならInstagramなど、お客様が実際に見ている媒体です。もう1つはストックが効く場所。noteか自社ブログのように、投稿が流れず、あとからの検索や発見で読まれ続ける媒体です。フロー型とストック型を1つずつ。この2つが安定してから、ショート動画やPodcastを足すのが定番の順番です。

Q6. SNS運用代行に外注するのとどちらがいいですか

役割が違います。外注が担えるのは変換と投稿の部分で、母体だけは社内からしか生まれません。御社の事業について資料なしで30分濃く語れる外注先は存在しないからです。運用代行で成果が出ない典型は「原料を渡さない丸投げ」のケース。外注を使うなら「母体はこちらで録る、変換と投稿をお願いする」という分担にしてください。そして、その変換の部分は、この記事のとおりAIが月数千円で担える仕事になりつつあります。

Q7. 事実と違う内容を投稿してしまう事故が怖いです

その感覚は正しくて、だからこそ変換指示文のすべてに「言っていないことを足さない」の縛りを入れています。加えて、公開ボタンを押す前の確認だけは必ず人間が行う。逆説的ですが、母体方式は無から生成させる運用よりも安全です。すべての投稿の根拠が、手元の文字起こしという一次資料に必ず存在するからです。「この投稿、元の収録のどこで言った?」といつでも原文に当たれる状態を保つこと——これが発信の事故に対する一番の保険です。

持ち帰り用:多媒体展開の設計シート

最後に、この記事を1枚に圧縮した設計シートを置いておきます。埋めるのは2つの表。10分あれば埋まります。まず母体の設計です。

母体の設計 記入例(私の運用) あなたの場合
母体の形式 YouTube番組の収録(聞き手の質問に答える対談形式) ______
テーマの決め方 顧客から実際に質問されたこと+前週に反応が良かった論点 ______
頻度 週1本(60〜90分) ______
残し方 文字起こしをテキストで「発信素材」フォルダへ ______

次に展開の設計。私の例を参考に、まずは2媒体分だけ書いてください。

媒体 1母体あたりの本数 変換ルール(何を残し、何を変えるか) トーンのお手本
(例)ショート動画 2〜3本 1論点1本。文脈なしで意味が立つ箇所だけ。言っていないことを足さない 過去の動画3本
(例)X 数本 1投稿1主張・140字・言い切り。誘導は最後の1本だけ 反応の良かった過去投稿5本
(例)note 1本 結論→理由→具体例→まとめに再構成。たとえ話は残す。足した箇所を列挙させる 過去記事5本
媒体①(フロー型):___ ___ ____________ ______
媒体②(ストック型):___ ___ ____________ ______

埋め方の手順は3つだけです。

  1. 母体を1つ選ぶ。4条件(資料なしで30分話せる/顧客に質問されたことがある/2年後も通用する/自分の言葉で話せる)に当てはまるテーマを1つ
  2. 媒体を2つ選ぶ。顧客がいる場所を1つ、ストックが効く場所を1つ
  3. 変換ルールを書く。STEP3の指示文を、自分の媒体名に書き換えるだけでいい

ここまで埋めて、最初の母体を録る予定をカレンダーに入れたら、仕組みづくりは完了です。

まとめ:「毎日作る人」から「週1回録って、確認する人」へ

1人広報が行き詰まる原因は、能力ではなく「媒体の数だけ作る」という設計にあります。1つの濃い母体を録り、文字起こしで原料に変え、媒体別の変換ルールでAIに展開させ、人間は確認して投稿を押す。私の会社で毎週回しているこの仕組みは、収録1本をショート動画2〜3本・X投稿数本・Podcast・note・HP記事——最大9本前後のコンテンツに変えますが、使っているのは文字起こしと変換指示文と、週2〜3時間の運用設計だけです。担当者の役割は「毎日作る人」から「週1回録って、確認する人」に変わります。

最初の一歩は、投稿でも媒体選びでもありません。来週すでに予定されている「誰かに何かを説明する時間」を1つ選んで、録音すること。セミナーでも、顧客への説明でも、社内勉強会でも構いません。文字起こしをAIに渡して、「この中で、単体で1本立つ論点はどれですか」と聞いてみてください。返ってきたリストが、あなたの会社の多媒体展開の第0週になります。

この設計を自社の発信と業務にどう実装していくか、隣で伴走する専門家という選択肢もあります。私たちの仕事の全体像はAI顧問とは何かの記事で公開しています。まとまった資料で掴みたい方は、下の無料資料セットからどうぞ。

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