同じ会社から出た提案書を3枚並べると、別々の会社の資料に見えることがあります。1枚目は文字がびっしり。2枚目は色が7色。3枚目は余白が広くて上品だけれど、社名の書き方だけが他の2枚と違う。作った人はいずれも真面目で、手を抜いてはいません。それでも受け取った側には、統一感のない会社に見えます。社内では「トンマナを統一したい」という言い方で相談を受けることが多いのですが、私はこれをデザインの相談としては受けていません。
先に結論を置きます。資料の見た目がバラバラなのは、センスの差ではありません。決めごとが言葉になっていないからです。上手い人の頭の中には確実に基準があります。ただ、その人がそれを言葉にしたことが一度もない。だから他の人にも、AIにも渡せない。渡せないものは、毎回ゼロから作り直されます。
そして、その決めごとは色や余白の数値から決めるものではありません。最初に決めるのは「何を大きくするか」です。1枚の中で一番言いたいことをどう選び、どう目立たせるか。ここが揃うと、色が多少ずれていても資料は不思議と揃って見えます。逆にここが揃っていないと、色番号を統一しても資料はバラバラのままです。ここから先は、その決めごとを1枚のファイルにして、資料を作るたびにAIに読ませる運用までを書きます。
日本テレビ・Bitget等でのB2Bマーケティング実務を経て、2023年にSHIFT AI創業へ参画。コミュニティ・スクール責任者として2年で3万人規模へのグロースを主導。2026年、静岡県熱海市でAiWiLL株式会社を創業。生成AI顧問「WiLLAGENT」として、防災設備・不動産管理・旅館・飲食など現場型の中小企業に入り、売り上げ向上に寄与するマーケティングや営業施策をどうAIで質を上げ、数を増やすかを一緒に考え抜き、人手不足のなか報告書・見積・マニュアルづくりといった実務をいかにAIで省くかといった、AIを使った事業づくりを伴走支援している。生成AI研修・Eラーニングの監修も担当。企画したイベント・ウェビナーは累計112件、参加者は1万人超。
AIエージェント・新規事業リサーチ・マーケティングの実践セミナー3本の本編と、WiLLAGENTのサービス説明PDFを、無料の資料セットとして公開しています。→ 無料資料セットを受け取る
資料のトンマナがバラバラなのは、センスの差ではない
顧問先で「資料の見た目を揃えたい」という相談を受けたとき、私はまず作り手を疑いません。疑うのは、会社の中に基準が書かれた紙が1枚もないという事実のほうです。私が生成AI顧問として関わってきた会社は累計約15社、研修・講座を含めれば30社を超えますが、「うちの資料はこう作る」を文章で持っている中小企業に、私はほとんど出会っていません。
持っていない理由も、だいたい同じです。
- 上手い人が、自分の基準を言葉にしていない。本人にとっては当たり前すぎて、説明する対象だと思っていない。
- 基準が「良い感じにして」という言葉で流通している。受け取った側は、自分の良い感じで作る。当然ずれる。
- 過去の資料をコピーして作っている。ただし、誰が何をコピー元にしたかは管理されていない。世代が進むほど分岐する。
- 直した理由が残らない。上司が「ここ大きくして」と赤を入れる。直る。なぜ大きくするのかは、次の人に伝わらない。
この4つは、資料に限った話ではありません。暗黙知の記事に書いたとおり、できる人ほど、自分の判断を意識していません。デザインはその典型です。「なんとなくこっちのほうがいい」で処理している判断が、実は毎回同じ基準で下されている。同じ基準で下されているのに、言葉になっていない。だから他の人には再現できないし、AIにも渡せない。
ここでよくある対処が、市販のテンプレートを配ることです。これは半分は効きます。半分しか効かない理由は、テンプレートは「見た目の器」しか配らないからです。器の中に何をどの大きさで入れるかは、結局作り手の判断に戻ってきます。同じテンプレートを配っても、1枚に12個の要素を詰める人と、3個しか置かない人が出ます。並べると、やっぱりバラバラです。
デザインの本を1冊読めば、揃える・近づける・繰り返す・対比する、といった原則は出てきます。原則そのものは正しい。ただ、原則を読んで自社の資料が揃った会社を、私は見たことがありません。原則と現場の間に、「うちの場合、具体的に何をどうするか」という一段が抜けているからです。この記事はその一段の作り方だけを書きます。
先に決めるのは色でも余白でもない。「何を大きくするか」
資料の見た目を揃えようとするとき、たいていの会社は色から入ります。コーポレートカラーの番号を配り、フォントを指定し、余白の数値を決める。決めた翌月には、誰も守っていません。守れない理由は、覚えていられないからです。数値は、作っている最中に思い出せません。
私が先に決めるのは、もっと粗い一点です。この1枚で、一番言いたいことは何か。それを、他より明らかに大きく置く。これだけです。
バラバラに見える資料を並べて観察すると、色が違うことより先に、主役の大きさが揃っていないことに気づきます。上手い人が作った1枚は、目を細めても「ここが主役だ」と分かります。いまいちな1枚は、目を細めると全部が同じ濃さで見える。全部を同じ大きさで置いているからです。全部が主役の資料は、読む人にとっては主役がゼロの資料です。
この差は、センスではなく順番の差です。上手い人は、作る前に「この1枚で相手に何を持って帰ってほしいか」を決めています。決めてから、それを大きくしている。いまいちな人は、資料に載せるべき情報を全部並べてから、あとで見た目を整えようとします。整える段階では、もう主役は選べません。全部が必要な情報に見えるからです。
| 決めごとの種類 | 効き目 | 覚えていられるか | 最初に決めるべきか |
|---|---|---|---|
| 1枚の主役を1つに決める | ◎ これだけで揃って見える | ◎ 一言で覚えられる | ◎ 最初に決める |
| 文字の大きさを何段にするか | ◎ 主役を大きくする土台 | ○ 3段までなら覚えられる | ◎ 主役の次に決める |
| 1枚に載せる要素の上限 | ◎ 詰め込みが止まる | ◎ 数字1つ | ◎ 3番目に決める |
| 使ってよい色の数 | ○ 数を絞ると効く | ○ 「3色まで」なら覚えられる | ○ 4番目でよい |
| 会社名・敬称の書き方 | ○ 社外に出る資料で効く | △ 一覧を見ないと守れない | ○ 早めに書く(覚えなくてよい) |
| 色番号・フォント名の指定 | △ 器は揃うが中身は揃わない | × 作業中に思い出せない | △ 最後でよい |
| 余白の数値(mm・pt) | △ 揃うと上品になる | × まず守られない | × 道具側に埋め込む |
表の下2行を見てください。色番号と余白は、効かないわけではありません。人間が覚えていられないのです。覚えていられないものは、人に守らせるのではなく、道具側に埋め込むか、ファイルに書いてAIに毎回読ませるほうが早い。ここが、この記事の中心になります。
「大きくする」を、守れる文に直す
「一番言いたいことを大きくする」は、まだ標語です。標語のままでは守れません。守れる文に直します。私が使っている直し方は、命令の形にして、数えられるようにすることです。
標語 → 守れる文
守れる文 1枚に、他より明らかに大きい文字を1か所だけ置く
守れる文 1枚に載せる箱・図・表は合計4つまで。5つ目が出たら次の1枚に割る
守れる文 地の色・文字の色・強調の色の3つだけ。強調色は1枚に1か所
守れる文 文字の大きさは3段まで(主役/見出し/本文)。4段目を作らない
出所:AiWiLLが顧問先に渡している言い換えの型
右側の文には共通点があります。全部、数えられることです。1か所、4つまで、3つだけ、3段まで。数えられる文は、作り終わったあとに人が確認できます。AIにも確認させられます。「メリハリをつける」は、作り手にもAIにも判定できません。判定できない基準は、決めごとではなく願望です。
この「数えられる形に直す」という作業は、AIが得意です。人が言い出しっぺになって、AIに削らせる。ここは後の章で手順にします。
揃っているかを、その場で確かめる方法
決めごとを作る前でも、いま手元にある資料が揃っているかは確かめられます。私が現場でやってもらうのは、道具を使わない2つの確認です。
1つ目は、目を細めて見ることです。画面から少し離れて、細部が読めない状態にする。それでも「ここが主役だ」と分かる資料は、大きさの決めごとが効いています。目を細めた瞬間に全部が同じ灰色の塊に見えたら、その1枚には主役がありません。文字を読み込む前に判定できるので、作った本人でも自分の資料を判定できます。
2つ目は、3枚を横に並べて、少し離れて見ることです。1枚ずつ見ていると、どの資料も「きちんとしている」ように見えます。並べた瞬間に、色数の違い、文字の詰まり具合、余白の量が一気に見えます。顧問先でこれをやると、たいてい部屋の空気が変わります。誰かの資料が悪いのではなく、会社として決めていなかったことが、視覚的に一発で伝わるからです。
この2つは、決めごとを作ったあとの点検にもそのまま使えます。数値を測る必要はありません。会社の資料を受け取る相手は、定規を持っていないからです。相手は目を細めるのと同じ精度で、一瞬で「揃っている会社かどうか」を判定します。だから決めごとも、その精度で効くものから先に決めます。
自社では、デザインの決めごとを1枚のファイルにして毎回AIに読ませている
うちの会社は社員2名、業務委託を含めて8名です。デザイナーはいません。それでも提案書、研修資料、図解、スライドのトーンは揃っています。理由は単純で、デザインの決めごとを1枚のファイルにしてあり、資料を作るときに毎回それを読ませているからです。
公開してよいのは中身の細部ではなく、ファイルに何が書いてあるかという構造です。うちの1枚は、だいたいこの並びでできています。
デザインの決めごと1枚——公開してよい構造
出所:AiWiLL自社のデザイン決めごとファイルの構造(中身の具体値・内部パスは非公開)
この中で、あとから足された行が一番役に立っています。⑤のやってはいけないことです。
うちのファイルに入っている行を一つ紹介します。スライドのヘッダーに会社ロゴを置くとき、幅の指定だけを小さくすると、ロゴが横方向に潰れて社名が途中で切れます。ロゴ画像が横長だからです。気づいた人がその場で直せば、その1枚は直ります。ここで普通は終わります。次に別の人が同じ資料を作ると、また同じところで切れます。
だから直したあと、決めごとファイルにこう書き足しました。「ロゴ画像は横長。高さを決めたら、幅は高さ×5で計算すること。幅を小さい値にすると横に潰れて社名が途中で切れる」。理由まで書いてあるので、次にこのファイルを読んだAIも、人も、同じ事故を起こしません。
1回の直しをどこに置くかで、その直しが二度目に効くかが決まります。その場のやり取りで直すだけなら、次の人には届きません。決めごとファイルに書き戻すと、次から全員に効きます。これはAI社員のつくり方で書いた考え方と同じで、直しの行き先を決めておくかどうかが、道具が育つかどうかの分かれ目です。
もう一つ、うちのファイルには「サイズの指定を間違えると背景が全面を覆わず、右と下に白が出る」という注意も入っています。これも、同じ理由でファイルに入っている行です。崩れ方は資産です。崩れ方を個人の記憶に置いておくと、その人が忙しい日に再発します。ファイルに置くと、再発しません。
決めごとは、白紙から書かない。良い資料といまいちな資料を並べる
ここが、この記事で一番実務的な部分です。
「デザインの決めごとを1枚にまとめましょう」と言われて、白紙を開いて書き始めた人は、ほぼ確実に止まります。私も止まりました。何を書けばいいか分からないのではありません。自分が何を基準にしているかを、思い出せないのです。判断は速く、無意識で、言葉になっていません。だから白紙に向かうと、教科書に載っている一般論を書き写すことになります。書き写した一般論は、自社の資料と一致しません。一致しないから、誰も使いません。
正しい順番は逆です。先に現物を並べて、違いをAIに言葉にさせます。
| 手順 | やること | 誰がやるか | 所要の感覚 |
|---|---|---|---|
| 1 | 過去の資料から「よくできた」3〜5枚を選ぶ | 人(社内で一番上手い人) | 30分 |
| 2 | 同じ数だけ「いまいち」を選ぶ。人を責める場ではないと先に言う | 人(同上) | 15分 |
| 3 | 両方をAIに渡し、違いを数えさせて表にさせる | AI | 数分 |
| 4 | 出てきた違いを、守れる命令形の文に直させる | AI | 数分 |
| 5 | 20項目出てきたら、7項目まで削る。削るのは人の仕事 | 人(決裁できる人) | 30分 |
| 6 | 1枚のファイルにして、置き場を決める | 人 | 15分 |
| 7 | 次に資料を作るとき、そのファイルを一緒に読ませる | 人+AI | 毎回1手間 |
| 8 | 直しが出たら、ファイルに理由つきで書き戻す | 人 | 都度2分 |
手順1と2は、外注もAI化もできません。どれが良い資料かを決めるのは、その会社の判断だからです。ここだけは社内の誰かが選びます。逆に言えば、社内の判断が必要なのは選ぶところだけで、そのあとの言語化はAIのほうが速く、正確です。人は自分の基準を説明できませんが、AIは並べられた6枚から差分を拾うのは得意です。
手順2で気をつけることを一つ。「いまいちな資料」を選ぶ場を、犯人探しにしないでください。私は必ず、選ぶ前に一言置きます。「これは作った人の問題ではなく、決めごとがなかった会社の問題です」。ここで空気が固くなると、良い素材が出てきません。実際、いまいちな資料ほど、決めごとの穴を正確に教えてくれます。
持ち帰り①:違いをAIに言葉にさせる依頼文
そのまま使える依頼文を置きます。うまい言い回しを探す必要はありません。大事なのは、一般論を書かせないことと、数えさせることの2点だけです。
あなたは、うちの会社の資料をレビューする担当です。
これから「よくできた資料」と「いまいちな資料」を同じ枚数ずつ渡します。
1. まず、渡した資料それぞれについて、次の4つを数えて表にしてください。
- 一番大きく置かれているものは何か(1枚につき1つ選ぶ)
- 1枚に載っている箱・図・表・写真の合計はいくつか
- 使われている色は何色か
- 文字の大きさは何段あるか
2. その表を見て、「よくできた」側にあって「いまいちな」側にない共通点を、
5〜8個にまとめてください。
3. まとめた共通点を、次に資料を作る人が守れる短い命令形の文に書き直してください。
条件:数えられる形にすること。
例)「メリハリをつける」ではなく
「1枚に、他より明らかに大きい文字を1か所だけ置く」
4. 表記のゆれ(社名の書き方、敬称、日付、数字の全角半角、送り仮名)が
資料間で違っていたら、違っている箇所をそのまま並べて挙げてください。
どちらが正しいかは、私が決めます。
5. 最後に、判断に迷った点・私に確認したい点を3つまで挙げてください。
デザインの一般原則の解説は不要です。渡した資料から読み取れることだけを書いてください。
この依頼文の肝は、4番と5番です。4番で表記ゆれを拾わせますが、どちらが正しいかはAIに決めさせません。社名の書き方や敬称は、会社の判断であってデザインの問題ではないからです。5番で確認事項を出させるのは、AIに勝手に埋めさせないためです。空白を嫌って、それらしい基準を補完してくることがあります。
資料そのものをAIに渡す方法は、この記事の主題から外れます。毎回貼り付ける運用ではなく、置き場を決めて読ませ続ける形にする話は資料をAIに読ませる記事にまとめてあります。決めごとファイルも、その書棚に一緒に置いてください。毎回チャットに貼り直す運用にすると、3日で誰もやらなくなります。
持ち帰り②:デザインの決めごと1枚——穴埋めひな形
AIに違いを言葉にさせたら、それを流し込む器が要ります。器は最初から決まっていたほうが早いので、私が顧問先に渡している穴埋めを置きます。項目は7つです。これ以上増やすと、誰も読まなくなります。
# 資料の決めごと(___ 用) 更新日:____ 決めた人:____
## 0. この決めごとを使う資料
- 対象:(例)社外提案書 / 社内報告 / 研修スライド
- 対象外:(例)個人のメモ、下書き
## 1. 何を大きくするか
- 1枚の主役は _____ (例:その枚で相手に持ち帰ってほしい一言)
- 主役は他より明らかに大きくする。1枚に __ か所だけ
- 主役が2つ思いついたら、__ 枚に割る
## 2. 文字の大きさの段数
- 段数は __ 段まで(例:主役/見出し/本文)
- __ 段目を作らない。細かい注釈は本文と同じ大きさにする
## 3. 1枚に載せる要素の上限
- 箱・図・表・写真の合計は __ つまで
- 超えたら削るのではなく、__ 枚に割る
## 4. 使ってよい色の数
- 地の色:_____
- 文字の色:_____
- 強調の色:_____(1枚に __ か所まで)
- これ以外の色は使わない。グラフの色分けが必要なときは _____ で代用する
## 5. 使ってよい素材
- ロゴ:_____(使い方の注意:_____)
- 背景:_____
- 書体:_____
- 迷ったら _____ に聞く
## 6. 表記のきまり(社外に出るもの)
- 社名:(例)「株式会社」を前に置く/略さない
- 相手先の敬称:(例)会社宛は「御中」、個人宛は「様」
- 日付:(例)西暦・半角数字
- 数字:(例)半角
- 表記ゆれ一覧:_____ / _____ / _____
## 7. やってはいけないこと(事故が起きたら追記する)
- (例)____ をすると ____ になるので禁止 ※20XX-XX-XX 追記
## 8. 作り終わったら確認する(数えられることだけ)
- [ ] 主役が1枚に1つある
- [ ] 文字の段数が決めた数に収まっている
- [ ] 要素の数が上限内
- [ ] 色が3つ以内、強調色は1か所
- [ ] 社名・敬称・日付・数字が決めたとおり
- [ ] やってはいけないことに触れていない
穴埋めを見て、「うちには決められない項目がある」と思ったら、それが正解です。決められない項目は、まだ会社の中で判断が固まっていない項目です。無理に埋めず、空欄のまま置いてください。空欄は、次に誰かが直しを入れたときに埋まります。
逆に、最初から全部を埋めようとしてゼロから考え始めると、前章の「白紙で止まる」に戻ります。穴埋めは、AIが出してきた差分を流し込むための器です。器を先に埋める作業ではありません。
| 項目 | 書かないと起きること | 効き目 | 最初の1枚に入れるか |
|---|---|---|---|
| 何を大きくするか | 全部が同じ大きさになり、主役が消える | ◎ | ◎ 必須 |
| 文字の段数 | 作る人ごとに段数が増え、うるさくなる | ◎ | ◎ 必須 |
| 1枚の要素の上限 | 詰め込みが止まらず、読まれない | ◎ | ◎ 必須 |
| 色の数 | 資料ごとに色数が違い、別会社に見える | ○ | ◎ 必須 |
| 使ってよい素材 | 古いロゴや別案の背景が混ざる | ○ | ○ 入れたい |
| 表記のきまり | 社名・敬称がバラつき、社外で恥をかく | ○ | ○ 社外資料があるなら必須 |
| やってはいけないこと | 同じ事故が何度も起きる | ◎ | △ 最初は空欄でよい |
| 確認リスト | 作りっぱなしになり、決めごとが死ぬ | ◎ | ◎ 必須 |
表記ゆれは「デザインの決めごと」に一緒に書いておく
社名の書き方や敬称は、見た目の話ではありません。ただ、置き場を分けると誰も見なくなるので、私は同じ1枚に入れています。資料を作る人が開くファイルは、1つにしておくのが鉄則です。
顧問先で実際にぶつかる表記ゆれは、だいたい次に集中します。
- 「株式会社」の前後。相手の正式表記が前株か後株かで、資料ごとに違う。ここは相手ごとに正解が決まっているので、迷ったら相手の公式サイトで確認する、と書いておく。
- 敬称。会社宛の「御中」と個人宛の「様」が混在する。宛名行に両方入っている資料が、いまだに出てきます。
- 「お客様」と「お客さま」。どちらでもいいので、どちらかに決める。決まっていないと、1つの資料の中で両方出てきます。
- 西暦と和暦。提案書の中で混ざると、読む側が計算させられます。
- 数字の全角半角。半角に寄せるほうが揃いますが、決めていないと同じ表の中でずれます。
- 自社サービス名の書き方。大文字小文字、半角スペースの有無。自社名すら揺れている会社は、珍しくありません。
この6つは、AIが一番きれいに直せる領域です。人が目視で拾うと必ず漏れますが、決めごとに書いてあれば、資料を作った直後に照合させられます。ただし、どちらが正しいかを決めるのは人です。AIに「一般的にはこちらです」と決めさせると、会社の慣習と食い違うことがあります。相手先の正式名称は、なおさら勝手に決めさせてはいけません。
入力してよい情報、AIに任せてよい範囲の線引きは、社内ルールの記事にまとめてあります。決めごとファイル自体には、顧客の非公開情報や個人情報を書かないでください。このファイルは、新しく入った人に真っ先に渡すものです。渡せない情報が混ざった瞬間、渡せないファイルになります。
決めごとを作ったのに崩れる、5つの型
1枚にまとめたのに揃わない会社があります。私が見てきた崩れ方は、5つに整理できます。
- 長すぎる。気合いを入れて12ページのガイドラインを作った会社。誰も読まないし、AIに読ませても、どれが優先か分からず薄まります。1枚に収まらない決めごとは、決めごとではなく資料です。
- 数えられない言葉で書いてある。「上品に」「シンプルに」「統一感を持って」。守ったかどうかを、作った本人も判定できません。
- 置き場が個人のパソコンの中にある。作った人しか開けないファイルは、存在しないのと同じです。共有の書棚に置き、誰でも読める状態にする。チームで共有する話のとおり、置き場が決まらないと運用は始まりません。
- 作ったきり、書き戻していない。直しが出るたびに、その場で直して終わっている。半年後、ファイルは実態とずれ、誰も参照しなくなります。直しの行き先を決めていないファイルは、必ず腐ります。
- 作り終わったあとの確認がない。決めごとを読ませて作らせたのに、出てきたものを誰も照合していない。照合しないなら、決めごとがあってもなくても同じです。
5つのうち、4番目が一番多い。そして一番もったいない。作るのに使った時間は同じなのに、書き戻しの2分をやるかどうかで、半年後に生きているか死んでいるかが決まります。ナレッジ管理の失敗で書いたことが、そのまま資料の世界でも起きます。溜めることではなく、直しが戻る流れがあることが本体です。
効果は見た目だけではない。新しい人が、最初の1枚を作れるようになる
決めごとを1枚にした会社で、経営者が一番驚くのは見た目ではありません。入って間もない人が、いきなり資料を1枚仕上げてくることです。
これまで、新しい人が最初の資料を作るときは、こうでした。過去の資料をもらう。どれが正解か分からないので、上司に聞く。上司は忙しいので、後回しになる。仕方なく自分の感覚で作る。出す。赤が入る。直す。また赤が入る。何度か往復して、ようやく形になる。この往復のあいだ、上司の時間も、本人の自信も削られています。
決めごとファイルがあると、この往復が減ります。本人は最初にファイルを読み、決めごとに沿って作り、確認リストで自分でチェックしてから出す。赤が入るとしても、判断に関わる中身の赤だけになります。見た目の赤は、ファイルが先に潰しているからです。
これは属人化の解消と、同じ話の別の面です。属人化というと、業務手順や顧客対応の話だと思われがちですが、資料の見た目も立派な属人化です。上手い人が抜けたら、資料の質が落ちる。落ちたことに、本人たちは気づかない。気づくのは、受け取った相手だけです。
| 場面 | 決めごとがない会社 | 決めごとが1枚ある会社 |
|---|---|---|
| 新しい人の最初の1枚 | 過去資料を探すところから始まる | ファイルを読んで、その日に作れる |
| 上司の関わり方 | 見た目に赤を入れる | 中身の判断だけ見る |
| 直しの往復 | 見た目の赤で何度も戻る | 戻ってくるのは中身の判断だけになる |
| AIへの指示 | 毎回、細かい注文を書き直す | ファイルを読ませて、中身の指示だけ書く |
| 上手い人が抜けたとき | 質が落ちる。理由が誰にも分からない | 基準は残る。手が足りないだけの問題になる |
| 半年後の資料 | 作った人ごとに分岐している | 並べても同じ会社の資料に見える |
| 外注・業務委託に頼むとき | 口頭で説明し、毎回ずれる | ファイルを渡すだけで、初回から近づく |
最後の行は、小さく見えて効きます。うちの会社が社員2名で回せている理由の一つが、これです。業務委託の方に渡すのが、口頭の説明ではなくファイル1枚で済む。説明の時間がゼロになるわけではありませんが、初回から近い位置に立ってもらえます。近い位置から始まると、赤を入れる回数も、気まずさも減ります。
マニュアルの作り方そのものはマニュアル作成の記事にあります。決めごとファイルは、マニュアルの中でも一番作りやすい部類です。理由は3つあって、対象が目に見えること、良し悪しを並べて比較できること、そして守れたかどうかを数えられることです。最初にマニュアル化するものを1つ選ぶなら、私は資料の決めごとを勧めます。
誰が、いつ直すか。運用は薄くする
決めごとファイルの運用を厚くすると、続きません。私が顧問先に置いてもらう運用は、これだけです。
| 頻度 | 誰が | やること | やらないこと |
|---|---|---|---|
| 資料を作るたび | 作る人 | ファイルを一緒に読ませる。確認リストで自分で見る | ファイルを開かずに作る |
| 赤が入るたび | 赤を入れた人 | 見た目の赤なら、その場で1行ファイルに書き足す | 口頭で言って終わりにする |
| 月1・15分 | 決めた1人 | 足された行を読み、重複と矛盾を消す | 全面改訂 |
| 半年に1回 | 決めた1人 | 直近の資料を3枚並べ、揃っているか目で見る | 数値の細かい見直し |
| 人が増えたとき | 受け入れる人 | 初日にファイルを渡す | 「見て覚えて」と言う |
| 道具を変えたとき | 決めた1人 | ファイルはそのまま。道具側の指定だけ書き換える | ファイルを作り直す |
2行目が、この表で一番大事です。赤を入れた人が、その場で1行足す。これを別の人の仕事にすると、絶対に溜まりません。赤を入れている瞬間が、基準を言葉にできる唯一のタイミングだからです。時間が経つと、なぜ大きくしろと言ったのか、本人も思い出せなくなります。
「その場で1行足すのが面倒だ」という声は、必ず出ます。私は、面倒だという感覚は正しいと思っています。だから足す先を1つに固定します。ファイルが2つ以上あると、どちらに書くか迷って、結局書きません。迷いどころを1つ消すだけで、書き戻しは続きます。
2年後に道具が変わっても、決めごとのファイルは持ち運べる
この手の話で必ず聞かれるのが、「どのAIを使えばいいですか」です。答えは、どれでも構いません。文章と画像を扱える道具なら、決めごとファイルを読ませて資料を作らせることはできます。
それより大事なのは、資産がどちらに残るかです。道具の中に作り込んだ設定は、道具を乗り換えた瞬間に消えます。決めごとを書いた1枚のファイルは、消えません。テキストで書いてあれば、次の道具にそのまま渡せます。2年後に主流のAIの名前が変わっていても、「1枚の主役は1つ」「要素は4つまで」「色は3つ」というファイルは、そのまま効きます。
この考え方は、コンテキスト経営で書いた話の一部です。会社に残すのは、道具の使い方ではなく、判断の基準そのものです。基準がファイルになっていれば、道具は入れ替えられる部品になります。基準が人の頭にしかないと、道具を変えるたびに、また誰かが説明し直すことになります。
だから、決めごとファイルを書くときは、ツール名に依存する書き方を避けてください。「◯◯というボタンを押す」ではなく「主役は1枚に1つ」と書く。前者は次のバージョンで消えますが、後者は10年後も読めます。道具固有の設定が必要なら、ファイルの末尾に別の節を作って、そこにまとめておく。乗り換えるときは、その節だけ書き換えます。
よくある質問
Q1. デザイナーがいない会社でも、本当にできますか?
できます。うちにもデザイナーはいません。必要なのはデザインの技能ではなく、社内で一番上手い人の判断を言葉にする作業です。上手い人がプロである必要はありません。「この3枚はよくできている」と選べる人がいれば足ります。
Q2. まず色とフォントを決めたほうが早くないですか?
先に決めても構いませんが、それだけでは揃いません。色番号が同じでも、1枚に主役が3つある資料と1つの資料は、並べると別物に見えます。順番としては、何を大きくするか、要素の上限、色の数、の順が効きます。色番号は、道具側に登録してしまえば人が覚える必要もありません。
Q3. 決めごとは何項目くらいが適切ですか?
最初は7項目前後を目安にしてください。AIに違いを出させると20項目くらい返ってきますが、そのまま使うと誰も守れません。削るのは人の仕事です。守られる7項目のほうが、守られない20項目より効きます。足りなければ、赤が入るたびに1行ずつ増えていきます。
Q4. 過去の資料が少ない会社は、どうしますか?
2枚ずつでも始められます。よくできた2枚といまいちな2枚を並べれば、差分は出ます。それも難しい場合は、他社の公開資料を「良い側」に置いても構いません。ただし、その場合に出てくるのは他社の基準です。自社の資料が溜まってきたら、必ず自社のもので置き換えてください。
Q5. AIに決めごとを作らせると、一般論しか返ってきません。
渡している材料が足りないか、依頼文で一般論を禁じていないかのどちらかです。この記事の依頼文には「一般原則の解説は不要」「渡した資料から読み取れることだけ」と書いてあります。この2行がないと、教科書の要約が返ってきます。あと、数えさせる指示も忘れないでください。数えさせると、具体に戻ります。
Q6. 資料の種類ごとに決めごとを分けるべきですか?
最初は分けないでください。1枚のファイルの中に「社外提案書の場合」「社内報告の場合」と節を作れば足ります。ファイルを分けた瞬間、どちらを読ませるかで迷いが生まれ、読まれなくなります。分けるのは、片方が明らかに肥大化してからで間に合います。
Q7. 決めごとを守らない人には、どう言えばいいですか?
守らない人を責める前に、確認リストが数えられる形になっているかを見てください。「上品に」を守れなかった人は責められません。「色は3つまで」を守れなかった人には、根拠を持って指摘できます。それでも守られないなら、その項目自体が現場に合っていない可能性が高い。項目を直すほうが早いことが、けっこうあります。
Q8. 資料の中身の質は、これで上がりますか?
上がりません。見た目が揃うことと、中身が良くなることは別です。ただ、見た目の赤が消えると、上司が中身に集中できるようになります。提案書の中身をどう組み立てるかは、提案書をAIで作る記事のほうに書いてあります。見た目の決めごとは土台で、勝ち筋は別に要ります。
持ち帰り③:来週やるかどうかの確認10問
読んで終わりにしないための10問です。「はい」が7つ未満なら、決めごとはまだ会社の中で動いていません。
- 社内で一番資料が上手い人が、誰なのか言えますか
- その人の基準が書かれた紙が、1枚でもありますか
- 「1枚の主役を1つにする」を、資料を作る全員が知っていますか
- 1枚に載せてよい要素の数を、数字で決めていますか
- 使ってよい色の数を、数字で決めていますか
- 社名・敬称・日付・数字の書き方が、どこかに書いてありますか
- その紙は、作った人以外も開ける場所にありますか
- 資料を作るとき、その紙をAIに一緒に読ませていますか
- 見た目の赤が入ったとき、その場で紙に1行足していますか
- 先月入った人に、初日にその紙を渡しましたか
8番と9番が、この10問の中心です。作っただけのファイルは、書棚の飾りです。毎回読ませて、直しが戻ってくる。この2つが回り始めると、決めごとは自分で育ちます。スキル化の記事で書いた「毎回同じことを説明している作業」の典型が、資料の見た目の注文です。同じ注文を3回書いたら、それはファイルに移す合図です。
まとめ:センスを揃えるのではなく、決めごとを1枚にする
会社の資料がバラバラなのは、作る人のセンスがバラバラだからではありません。基準が上手い人の頭の中にしかなく、言葉になっていないからです。言葉になっていないものは、人にもAIにも渡せません。
- 最初に決めるのは色でも余白でもなく、何を大きくするか。ここが揃うと、色が多少ずれても資料は揃って見える
- 決めごとは、守れたかどうかを数えられる文にする。「上品に」は決めごとではない
- 白紙から書かない。よくできた資料といまいちな資料を並べて、違いをAIに言葉にさせる
- 出てきた20項目を、人が7項目に削る。選ぶことと削ることが、会社の判断
- 1枚のファイルにして、資料を作るたびに読ませる。毎回の細かい指示が消える
- 見た目の赤が入ったら、その場でファイルに1行足す。書き戻しがないファイルは腐る
- 効果は見た目だけではない。新しく入った人が、初日に1枚を作れるようになる
うちの会社にデザイナーはいません。それでも資料のトーンが揃っているのは、決めごとを1枚にして、毎回AIに読ませているからです。潰れたロゴも、白が出た背景も、崩れ方が見つかるたびに1行ずつ書き足してきました。書き足した行の数が、そのまま、二度と起きなくなった崩れ方の数です。
2年後、いま使っているAIの名前は変わっているかもしれません。それでも「1枚の主役は1つ」と書いた1枚は、そのまま次の道具に渡せます。会社に残すのは道具ではなく、判断の基準そのものです。
伴走の役割はAI顧問とはにまとめてあります。自社の決めごとを1枚にするところから始めたい方に向けて、進め方の資料を無料で置いてあります。項目の選び方と、書き戻しの回し方は、こちらからどうぞ。
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