業務マニュアルをAIで作る方法|「書く時間がない」を録画と議事録で突破する

マニュアルは書かずに作る——録画・文字起こし・チャットからAIがマニュアルを製本するイラスト

「マニュアル、ちゃんと作らないととは思ってるんですけどね」——顧問先でマニュアルの話題になると、この台詞をほぼ必ず聞きます。重要なのは分かっている。過去に号令をかけたこともある。それでも無い。私は生成AI顧問として累計15社、研修や講座も含めれば30社超の会社を見てきましたが、業務マニュアルが無い会社に共通しているのは、意識の低さではありません。「書く」というまとまった時間が、業務を知っている人にだけ決して生まれない——この一点です。業務を知っている人ほど現場で忙しく、手が空いている人は業務を知らない。マニュアル作成はこの構造のせいで、重要度とは無関係に、後回しの王様であり続けます。

結論を先に書きます。マニュアルは、書かずに作れます。原料はすでに社内に転がっています。画面録画、会議の文字起こし、チャットのやり取り、過去の成果物。AIが得意なのはゼロからの執筆ではなく、こうした素材を「マニュアルの形」に変換することです。素材別の作り方は4パターンあり、それぞれに指示文例があり、最初の1本は今週中に作れます。顧問の現場で実際に回している手順を、導入でつまずいた私自身の失敗談も含めて、全部書きます。


赤堀亘
執筆・監修 AiWiLL株式会社 代表取締役 赤堀亘

日本テレビ・Bitget等でのB2Bマーケティング実務を経て、2023年にSHIFT AI創業へ参画。コミュニティ・スクール責任者として2年で3万人規模へのグロースを主導。2026年、静岡県熱海市でAiWiLL株式会社を創業。生成AI顧問「WiLLAGENT」として、防災設備・不動産管理・旅館・飲食など現場型の中小企業に入り、売り上げ向上に寄与するマーケティングや営業施策をどうAIで質を上げ、数を増やすかを一緒に考え抜き、人手不足のなか報告書・見積・マニュアルづくりといった実務をいかにAIで省くかといった、AIを使った事業づくりを伴走支援している。生成AI研修・Eラーニングの監修も担当。企画したイベント・ウェビナーは累計112件、参加者は1万人超。

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目次

「マニュアルが無い」の正体——重要度ではなく、工数の置き場所の問題

まず、敵の正体をはっきりさせます。マニュアルが作られない理由を「忙しいから」で片付けると、対策が「時間を作ろう」になり、そして失敗します。もう少し解像度を上げると、ゼロから業務マニュアルを書くという行為には、三重の無理が乗っています。

  • 書き手が執筆のプロではない — 業務のプロと文章化のプロは別のスキルです。現場で完璧に仕事を回せる人が、その手順を過不足なく文章にできるとは限らず、慣れない執筆は1本に膨大な時間を食います。
  • 書いている間、現場が止まる — マニュアルを書けるのは業務を知っている人だけで、その人は現場で一番抜けられない人です。執筆時間はそのまま現場の稼働から差し引かれます。
  • 書き上がる頃には業務が変わっている — 数ヶ月がかりで完成させた頃には、システムも体制も少しずつ変わっていて、初版から「実態と違う」箇所を抱えて生まれてきます。

私の見聞きする範囲では、マニュアル整備プロジェクトの止まり方はいつも同じです。キックオフでフォーマットを決め、業務ごとに担当を割り振り、1ヶ月後の進捗確認で「まだ着手できていません」が並ぶ。悪いのは担当者ではありません。「現場で一番忙しい人の、未来の空き時間」という存在しない資源を当てにした計画が悪いのです。残業で書く、合宿で書く、専任担当を置く——工数を捻出する方向の努力は、私が見てきた限りほぼ全部この壁に当たります。

だから突破口は、工数の捻出ではなく工数の消滅です。書く時間を確保するのではなく、「書く」という工程そのものを無くす。ここから先は、その具体的な方法の話です。

発想の転換——マニュアルの原料は、すでに社内にある

ゼロからマニュアルを書く行為を分解すると、「思い出す→構造化する→文章にする」の3工程です。後ろの2つ、構造化と文章化はAIの得意分野ど真ん中です。そして実は、最初の「思い出す」すら多くの業務では不要です。業務の実態は、すでにどこかに記録されているからです。具体的には、この4つです。

  • 画面録画 — いまや多くの業務はPCの画面上で行われ、録画はワンクリックで残せます。作業をいつも通りやって録るだけなら、追加の工数はほぼゼロです。
  • 会議・打ち合わせの文字起こし — オンライン会議の録画や自動議事録には、業務の説明・引き継ぎ・判断のやり取りがそのまま入っています。
  • チャットのやり取り — 「あの件、どうすればいいですか」というスレッドは、質問と回答のペア、つまりFAQの原石です。
  • 過去の成果物と古いマニュアル — 完成した提案書や報告書は「正解の見本」であり、数年前に力尽きた書きかけのマニュアルも、改訂の土台としてなら立派に働きます。

私は顧問先でいつも「コンテキスト(AIに渡す材料)は、プロンプト(指示文の巧拙)より桁違いに重要」と伝えています。マニュアル作成はその最たる例です。素材を渡さずに「経費精算のマニュアルを書いて」と頼めば、それっぽい一般論が出てきます。どこの会社にも当てはまりそうで、自社の実態とは微妙に全部ずれている——読んだ新人を一番混乱させる、たちの悪い文書です。逆に、60分の引き継ぎの録音を渡せば、出てくるのは自社の言葉と自社の手順でできたマニュアルです。上手な指示文を探すより先に、渡せる素材を探してください。

なお、素材がどこにも存在しない業務——ベテランの頭の中にだけあって、録画にも議事録にも残っていない勘や判断——は、この記事の守備範囲の外です。そちらは「AIにインタビューさせて聞き出す」という別のやり方になるので、暗黙知を会社にインストールする方法の記事に分けて書きました。この記事で扱うのは「記録はすでにある。マニュアルだけが無い」という、実は大多数の会社の話です。

画面録画
会議の文字起こし
チャットログ
旧マニュアル・成果物

AIの仕事
構造化・変換
手順の抽出/判断基準の整理/不明点のマーク

↓  ↓
人間用マニュアル
新人・後任が現場で引く手順書・FAQ

AI用の手順書
AI社員が毎回読み込む判断基準・作業指示

▲ 「書く」のではなく「変換する」。同じ素材から、人間用とAI用の2つの出口へ

素材別・業務マニュアルの作り方4パターン(指示文例つき)

マニュアルをAIで作る素材別4パターンの図解。録画→手順書、説明→マニュアル、チャット→FAQ、旧版→改訂

ここからが本編です。手元にある素材の種類によって、作り方と出来上がるものが変わります。まず全体像を表にします。自社の場合はどのパターンから始められそうか、当たりをつけながら読んでください。

パターン 原料になる素材 できあがるもの 向いている業務
①録画→手順書 作業中の画面録画+実況音声 操作手順書(1操作1行) システム入力・PC上の定型作業・ツール操作
②議事録・口頭説明→マニュアル 引き継ぎやOJTの録音・会議の文字起こし 業務マニュアル(流れ・判断基準込み) 流れと判断が絡む業務・引き継ぎ全般
③チャットログ→FAQ 社内チャットの質問・回答スレッド FAQ・トラブルシューティング集 問い合わせが繰り返し来る業務・総務/経理/情シス
④旧マニュアル→改訂 古いマニュアル+現状が分かる素材 現状に合った改訂版+改訂履歴 「あるけど誰も見ない」文書の再生

パターン①:画面録画→操作手順書

PC上の定型作業なら、これが最速です。やることは1つだけ。次にその業務をやるとき、画面を録画しながら、独り言で実況する。「ここで先月分の伝票を開きます」「この欄は空欄のままで大丈夫です」「ここ、間違えると差し戻しになるので注意です」——いつも通り仕事をして、口だけ動かす。追加の作業時間は実質ゼロです。録画はWindowsなら標準機能(Xbox Game Bar)で、オンライン会議のレコーディング機能を独りで回しても構いません。

AIに渡すのは、実況音声の文字起こしです。動画をそのまま読めるAIを使っているなら動画ごと渡せますが、文字起こしとつまずきやすい画面のスクリーンショット数枚でも十分に機能します。指示文例はこうです。

あなたは業務マニュアルの編集者です。
添付するのは「経費精算システムの月次入力作業」を、担当者が
画面録画しながら実況した音声の文字起こしです。

これを新人向けの操作手順書に変換してください。
- 手順は番号付きで、1操作につき1行
- 「どの画面の・どこを見て・何をするか」を毎行明記する
- 実況に出てきた注意点・つまずきやすい点は、該当する手順の
  直後に【注意】として差し込む
- 元の発言にない操作を推測で補わない。手順がつながらない
  箇所は【要確認】と残す

指示の最後の1行が肝です。AIは話の飛んだ箇所を「それらしく」埋めようとするので、推測で補わせず、穴は穴のまま【要確認】と出させる。この指示があるだけで、出力の信頼性がまるで変わります。注意点は素材側にもあります。画面に顧客名や個人情報が映る作業なら、録画前にテストデータに切り替えるか、該当画面を範囲外にしてください。

パターン②:議事録・口頭説明→業務マニュアル

流れと判断が絡む業務——月次の請求処理、クレーム対応、発注の段取り——には、このパターンが向いています。素材として最高なのは引き継ぎやOJTの録音です。人間は不思議なもので、「書いてください」と頼むと固まる人が、「後輩に教えてあげてください」と頼むと1時間よどみなく話します。書けないことも、話せるのです。だから引き継ぎ面談や新人へのOJTの場面を、本人の了解を取って録音する。すでにオンライン会議で業務説明をした録画が残っているなら、それがそのまま使えます。

添付は、経理担当が後任に「月次請求業務」を口頭で引き継いだ
60分の録音の文字起こしです。

これを業務マニュアルに構造化してください。
- 構成: 目的/全体の流れ/手順/判断基準/
  やってはいけないこと/関係者・連絡先
- 話し言葉の重複や言い直しは整理してよい。ただし
  固有の判断基準(「◯◯のときは△△する」)は言い換えずに残す
- 話者が曖昧に言った箇所・矛盾している箇所は、本文に
  混ぜずに末尾へ【要確認リスト】としてまとめる

話し言葉には「言い過ぎ」と「言い漏れ」が必ず混ざるので、構造化した結果は本人に一度だけ読んで直してもらってください。ゼロから書くのと違って、出来上がった文書への赤入れは30分仕事です。なお、会議の議事録はマニュアル以外にも使い道の多い素材で、議事録を「次の仕事」につなげる発想の全体像は議事録AI活用の記事に書いています。

パターン③:チャットログ→FAQ

SlackやTeams、LINE WORKSの社内チャットは、過去問の宝庫です。「経費のこれ、どの科目ですか」「PCの調子が悪いときは誰に言えばいいですか」——質問と回答のペアが、日付つきで何百件も溜まっている。これをFAQに変換すると、聞かれた回数の多い順=現場が実際に困っている順という優先順位まで自動的に手に入ります。ゼロから「新人が困りそうなこと」を想像して書くFAQとは、当たり方が違います。

添付は社内チャットの「総務・経費」チャンネルの過去6ヶ月分の
ログです(個人名・顧客名はマスキング済み)。

繰り返し聞かれている質問を抽出し、FAQ形式にまとめてください。
- 同じ趣旨の質問は1つに統合し、聞かれた回数が多い順に並べる
- 回答は、ログの中で実際に問題が解決した回答だけを根拠にする
- 同じ質問に新旧で違う回答がある場合は、日付の新しいほうを
  採用し、その旨を注記する
- ログに答えが見つからない質問は、回答を作らずに
  「未回答リスト」として分けて出す

この「未回答リスト」が思わぬ副産物になります。チャットで聞かれ続けているのに誰も明確に答えられていない質問の一覧——つまり、次にマニュアル化すべき業務のリストがそのまま出てくるのです。素材を渡す前のマスキングだけは省かないでください。個人名・顧客名・評価に関わるやり取りは、FAQの役には立たないのに、漏れたときの傷は深い情報です。

パターン④:古いマニュアル→改訂版

「マニュアルはあるんです。誰も見ないだけで」という会社も多いはずです。数年前に誰かが執念で作り、一度も改訂されないまま実態とずれ、「あれは当てにならない」と言われて棚で眠っている文書。あれは失敗作ではありません。古いだけです。そして「古い文書と現状の差分を取って直す」のは、ゼロから書くよりはるかに軽く、AIの得意技です。旧マニュアルに、現状が分かる素材——直近の議事録、チャットログ、現行システムのスクリーンショット——を添えて渡します。

添付は数年前に作られた「受注処理マニュアル」と、現在の実際の
運用が分かる素材(直近の議事録・チャットログ・現行システムの
画面キャプチャ)です。

旧マニュアルを現状に合わせて改訂してください。
- まず、旧版と現状素材が食い違っている箇所をすべて列挙する
- そのうえで改訂版を作り、変更箇所には末尾に「改訂履歴」として
  日付・変更内容・根拠にした素材を記録する
- 現状素材から確認できない手順は、削除せずに【現場確認】と
  マークして残す

ここでも原則は同じで、確認できないものを消させないこと。旧マニュアルにだけ書かれている手順は、廃止されたのか、単に最近の素材に登場しなかっただけなのか、AIには判定できません。判定は現場がやる。AIには「食い違いの列挙」と「マークつきの改訂案」までをやらせる。この分業を守ると、改訂作業は現場にとって「読んで、マークに答えるだけ」の仕事になります。

実例——マニュアルを作りたかったのに、その手前で転んだ話

顧問先の実例を1つ、失敗談から書きます。静岡・熱海のマチモリ不動産という不動産会社を支援したときのことです。目的ははっきりしていて、マニュアル作成。そのための道具として、CursorとClaude Codeというファイルやフォルダを扱えるAI環境を入れることにしました。私はオンラインで導入指導を始めました。画面越しの案内で十分いける——そう踏んでいたのです。

結果から言うと、最初のインストールの段階でつまずきました。オンライン越しに一つひとつ案内しても、こちらの想定どおりには進まない。遠隔の指導では、相手のPC環境の細かな差までは拾いきれないのです。粘るより切り替えるべきだと判断して、オフラインの対面対応に切り替えました。壁は業務の中身ではなく、最初のインストールにあった——それがこの話の教訓のすべてです。正直に書けば、見立てが甘かったのは私です。「導入はオンラインでスマートに」という私の絵は、初手のインストールで崩れました。

この経験から持ち帰ってほしいことが2つあります。1つ目は、マニュアル作成プロジェクトの最初の壁は、マニュアル作成ではなく「AIが動く環境を作る」段階に来るということ。ブラウザで使う普段の生成AIだけならこの壁はほぼありませんが、フォルダごと素材を渡せるエージェント型のAIを入れるなら、インストールという物理的な最初の一歩でつまずく前提で計画してください。Windowsでの具体的なインストール手順はClaude Codeのインストール記事にまとめてあります。2つ目は、つまずきは失敗ではなく通過点だということです。オンラインで駄目なら対面に切り替えればいいだけで、そこで「うちにはまだ早いのかも」と撤退してしまうのが一番もったいない。壁の位置をあらかじめ知っていれば、驚かずに越えられます。

マニュアルは「AIが読む文書」としても設計する——一石二鳥の話

ここからは、この記事で一番伝えたい話です。これから作るマニュアルの読者は、人間だけではありません。AIもマニュアルを読んで働くのです。私は「AI社員」という言い方をしていますが、AIエージェントに仕事を任せるとき、その品質を決めるのは毎回の指示の上手さではなく、AIが参照する手順書と判断基準——つまりマニュアルです。私の定式で言えば、優秀なAI社員は「Prompt×Context×Harness」の掛け算で決まり、マニュアルはこのContext(文脈・材料)の中核に当たります。

自社の実例を出します。私の会社では、日報の作成、SEO記事の制作、提案資料の組み立てといった定型業務を、それぞれ「AI用の手順書」としてファイル化してあり、1行の指示で同じ品質の仕事が再現される状態にしています。中身を見ると、人間の新人に渡す業務マニュアルとほとんど同じことが書いてあります。目的、手順、判断基準、やってはいけないこと、成果物の置き場所。つまり、人間用のマニュアルを整備することと、AIに仕事を教えることは、ほぼ同じ作業なのです。せっかく素材から変換するなら、最初から両方の読者を想定して作れば、一度の手間で二度おいしい。

AIにも効くマニュアルにするための書き方のコツは4つです。

  • 判断基準を「もし◯◯なら△△」の形で書く — 「臨機応変に対応」はAIにも新人にも実行不能です。条件と動作のペアに分解します。
  • 暗黙の前提を文字にする — 「例のフォルダに保存」ではなく、フォルダの場所・ファイルの命名まで書く。社内の人間なら聞けば済みますが、AIは書いていないことを知りません。
  • やってはいけないことを明記する — 禁止事項は、やるべきことと同じ重さで書きます。AIは禁止と書かれていないことを平気でやります。
  • 元データを1つにして、人間用とAI用を両方とも出力させる — 先に業務知識の構造化データを固め、そこから「新人向けマニュアル」と「AI用手順書」の2形式に展開させる。直すときは元データだけ直して再出力します。

気づいた方もいると思いますが、この4つは全部、人間の新人にも優しい書き方です。AIに読ませるつもりで書くと、人間用マニュアルの品質が上がる——これは顧問の現場で何度も確認してきた、私のお気に入りの副作用です。ちなみに「元データから複数の出口へ展開する」やり方は文書以外にも通用して、私の会社ではAI導入講座の教材63本を、設計・画像・実装の3層に分担するやり方で作り切りました。素材と分担の設計さえ固まれば、教材もマニュアルも量産は現実的な話になります。AI社員という考え方の全体像と作り方はAI社員の作り方の記事にまとめているので、AI用の出口まで使い切りたい方はそちらへどうぞ。

作って終わりにしない——更新が止まらない仕組み

マニュアルの本当の死因は「作られないこと」ではなく、「作られた直後から始まる陳腐化」です。完成した瞬間がいちばん正確で、あとは実態とずれていく一方。従来はこの更新を「書ける人の善意」に頼っていたので、初版を書き上げた英雄の異動とともにマニュアルは死にました。素材駆動で作ったマニュアルは、更新も素材駆動にできます。仕組みは4つです。

①更新も「差分の変換」にする。業務が変わるとき、社内には必ず新しい素材が生まれます。システム更改の説明会の録画、新しい運用を決めた会議の議事録、「来月からこうなります」というチャットの告知。それをマニュアルと一緒にAIに渡して、「この変更を反映した改訂版と、変更箇所の一覧を出して」と頼む。ゼロから書き直す更新作業は存在しなくなります。

②改訂履歴を必ず残す。いつ・誰が・何を根拠に・どこを変えたか。パターン④の指示文例に「改訂履歴」を入れてあるのはこのためです。私の運用の原則は「壊されないか、ではなく壊れても戻せるか」。履歴さえあれば、改訂に失敗しても前の版に戻せます。戻せると分かっていれば、現場は安心してマニュアルに手を入れられる。更新が止まる心理的な原因の半分は「下手に触って壊すのが怖い」なので、履歴はその恐怖を消す装置です。

③更新のトリガーを業務イベントに紐づける。「半年に1回、見直し会議をやろう」は、やらない約束と同じです。そうではなく、システムの更改・組織変更・新人の入社・現場からの【要確認】の発見——実際に起きる出来事を更新の引き金にします。出来事が起きたら、そのとき生まれた素材を添えて改訂する。カレンダーではなくイベントで回すのが、止まらない更新のコツです。

④新人を最初の読者兼テスターにする。マニュアルの穴を見つける能力が一番高いのは、その業務を知らない人です。新人に渡すときは「これを読んで作業して、分からなかった箇所・実態と違った箇所に印をつけて」とセットで頼んでください。その書き込みが次の改訂素材になります。新人が入るたびにマニュアルが強くなる——教える側の負担が減るだけでなく、教わる側が資産形成に参加する構造になります。

先回りしておく——やりがちな4つのNG

  • 素材を渡さずに「◯◯のマニュアルを書いて」と頼む — 一番多い失敗です。出てくるのは検索すれば見つかる一般論で、自社の実態とずれた文書は、無いより悪い結果を招きます。指示文を磨く前に素材を集める。順番はいつもこちらが先です。
  • 全業務を一斉にマニュアル化しようとする — 対象業務の一覧表を作った時点で満足し、熱が冷めます。まず1業務1本。できた1本を回覧するほうが、どんな計画書より社内を動かします。
  • フォーマットを先に決める会議を開く — 見出し構成や体裁の議論は、中身が1本もない段階では空中戦です。1本目は不格好でいい。形式の統一は、3本できてから半日で追いつけます。
  • AIの出力をノーチェックで配る — 素材に基づかせても、言い過ぎ・言い漏れは残ります。現場担当者の赤入れを1回、必ず挟んでください。逆に言えば、現場の仕事は執筆から「30分の赤入れ」に変わった、ということです。

よくある質問

Q1. どのAIツールを使えばいいですか?費用はどれくらいかかりますか?

始めるだけなら、ChatGPTやClaudeなど普段使いの生成AIで十分です。文字起こしを貼り付けて、この記事の指示文例を渡せば今日から動きます。フォルダごと素材を渡したい・複数のマニュアルを横断的に管理したい段階になったら、Claude Codeのようなファイルを扱えるAIエージェントが向いています。費用感としては、私の顧問先でのツール実費は1人あたり月3,000円〜1万円の範囲に収まっています。マニュアル1本の外注費と比べれば、道具代はほぼ誤差です。

Q2. 録画やチャットログをAIに渡して、情報漏えいは大丈夫ですか?

線引きを先に決めれば実務上は問題ありません。最低限、①入力内容がAIの学習に使われる設定をオフにする(学習オプトアウト)、②個人情報・顧客名・取引条件・パスワードは素材から除くかマスキングする、の2点です。マニュアルに必要なのは手順と判断基準であって、固有名詞や金額ではないので、マスキングしても品質はほぼ落ちません。AIに渡す情報の考え方の全体はセキュリティと情報入力の記事にまとめています。

Q3. AIが間違った手順を書いてしまうのが心配です。

その心配は正しく、対策は3段構えです。①素材に基づかせる(ゼロから書かせない)、②指示文に「推測で補わない・不明箇所は【要確認】と残す」を必ず入れる、③配布前に現場担当者の赤入れを1回挟む。特に②が効きます。私は出力に【要確認】が1つも無いときのほうをむしろ疑います。60分の口頭説明に曖昧さがゼロということは、現実にはまず無いからです。

Q4. 動画マニュアルとテキストのマニュアル、どちらがいいですか?

二者択一にしないのが答えです。録画という素材からは両方作れます。動画は「動きのある操作」を伝えるのに強く、テキストは検索できて、部分改訂ができて、そしてAIが読めます。Q1のエージェント型AIに仕事を任せる将来まで考えるなら、テキスト版は必ず作っておくべきです。動画しか無い資産は、AIから見ると読めない資産になります。実務では「動画を残しつつ、その文字起こしからテキスト手順書も生成しておく」が一番堅い運用です。

Q5. マニュアル作成の専用ツールと生成AIは、どちらを使うべきですか?

スクリーンショットを自動取得して手順書の体裁に整える専用ツールは、パターン①の「操作手順書」を量産する場面では強力です。一方、口頭説明からの構造化(パターン②)、チャットログからのFAQ抽出(パターン③)、旧版の差分改訂(パターン④)、そしてAI用手順書への展開は、汎用の生成AIにしかできません。判断軸は「作りたいものが操作手順書だけかどうか」です。併用も普通にありです。

Q6. 素材がどこにも無い業務はどうすればいいですか?

ベテランの頭の中にしかなく、録画も議事録も残っていない業務は、素材を「これから作る」段階から始めます。有力なのは、AIをインタビュアーにしてベテランから聞き出す方式です。話すだけなので本人の負担が軽く、質問によって本人も言語化していなかった判断基準まで掘り出せます。やり方は暗黙知を会社にインストールする方法の記事に、質問テンプレートつきで書きました。まず本記事のパターンで「素材のある業務」を片付け、素材の無い業務はインタビュー方式へ、という順番が現実的です。

持ち帰り用:「最初の1本」を今週作るチェックリスト

最後に、そのまま使えるチェックリストを置いておきます。目標は立派な整備計画ではなく、今週中に1本目のマニュアルを現物として出すことです。上から順に進めてください。

☑ 最初の1本チェックリスト(10項目)

  1. 新人や後任から「聞かれる回数が一番多い業務」を1つだけ選んだ
  2. その業務の素材が4パターンのどれで手に入るか確認した(録画できる/引き継ぎ録音がある/チャットにある/旧マニュアルがある)
  3. 素材が無い場合は、次にその業務をやる日に「画面録画+実況」を予約した(追加工数ほぼゼロの①へ)
  4. 素材から個人情報・顧客名・パスワードを除くかマスキングした
  5. 使うAIの学習オプトアウト設定を確認した
  6. 該当パターンの指示文例をコピーし、素材と一緒にAIへ渡した
  7. 出力に【要確認】が残っていることを確認した(1つも無い出力のほうを疑う)
  8. 業務を知っている担当者に30分の赤入れをしてもらった
  9. 末尾に改訂履歴の欄を作り、初版の日付と根拠にした素材を書いた
  10. 置き場所を決め、次に読む人に「分からなかった箇所に印をつけて」とセットで渡した

1に書いた「一番聞かれる業務」を思い浮かべたとき、具体的な業務名と、それを答え続けている人の顔が浮かんだはずです。その業務が1本目です。フォーマットの相談も、ツールの比較検討も、1本目の後でいい。現物が1つあると、社内の会話が「やるべきかどうか」から「次はどの業務か」に変わります。

まとめ:書く時間は、永遠に来ない。だから書かずに作る

要点は3つです。①マニュアルが無いのは意識の問題ではなく、「業務を知っている人に書く時間が無い」という構造の問題。②突破口は工数の捻出ではなく消滅——画面録画・議事録・チャットログ・旧マニュアルという既にある素材を、AIで変換する。③せっかく作るなら人間用とAI用の一石二鳥で設計し、更新は素材駆動とイベント駆動で回す。マニュアルはコストではなく、人にもAIにも仕事を教えられる、会社の資産になります。

自社のどの業務から手を付けるべきか、AI環境の導入も含めて体系的に進めたい方向けに、無料の資料セットを用意しています。マチモリ不動産のように導入の入り口から一緒に進める伴走の形——生成AI顧問という関わり方——については、AI顧問とは何かの記事に費用の考え方も含めてまとめているので、そちらも覗いてみてください。まずは今週、1本目からです。

「自社なら何から始めるべきか」を見つけたい方へ

AI顧問「WiLLAGENT」は、AIを「知る」で終わらせず、会社の仕事で使える状態まで一緒に動かす伴走型AI顧問です。現場に行き、一緒に作り、社内に残す。経営・営業・マーケティング・業務改善まで、現場の課題から優先順位を決めて進めます。

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