経営者の判断を、社員が仕事で参照できる形に残したい。今回の支援では、理念や方針だけでは、担当者が具体的な場面で何を選び、どこから経営者へ相談すればよいか分からないことが課題でした。

赤堀亘
執筆・監修 AiWiLL株式会社 代表取締役 赤堀亘

AiWiLL株式会社代表。AI顧問「WiLLAGENT」で、企業の仕事をAIと人が進められる形にする伴走支援を行っています。記事では、実務で使える手順と、人が確認すべき点を明らかにします。

AiWiLLでは質問設計を見直し、私が経営者へ、実際に判断した場面からインタビューしました。採用の仕事を題材に、何を見て決めたのか、別の条件ならどうするのか、担当者が決めてよい範囲はどこかを聞きました。

AIに担わせたいのは、文字起こしから実例・判断の理由・未確認事項を整理し、社員が参照する資料の下書きを作る部分です。発言を本人が確認し、共有してよい情報と閲覧範囲を決めてから使う形を提案しました。

今回残ったのは、経営者の判断を聞いた記録と、聞けたこと・聞けなかったことの一覧です。AIが経営者と同じ判断を再現した、という検証までできたわけではありません。

抽象的な答えを、実際の一場面へ戻す

以前の質問設計は、短い一問一答で方針をまとめる形でした。内部の振り返りには、それだけでは抽象的な答えにとどまり、判断を再現する材料が足りないという問題が残っています。

そこで質問を、過去に決めた場面へ寄せました。何を選んだかだけでなく、そのとき迷ったこと、決め手になった情報、断る側へ変わる条件も聞きます。

たとえば「任せられる人がよい」と答えたら、その言葉をそのまま結論にしません。どんな行動を見て任せられると感じたのか。似ていても任せられない場面はあるか。ここは読者向けの質問例ですが、こうした具体化を狙った設計です。

答えを期待する方向へ誘導せず、実例と境界を増やす。きれいな会社紹介を作るときとは、聞きたいものが違いました。

判断の基準と、判断する権限を一緒に聞いた

実際の個別インタビューでは、過去の判断例、合否を見る観点、会社らしさの一部に加え、どこまで担当者へ任せるかを聞きました。

判断基準が書けても、本人へ毎回確認しなければ仕事は進まないかもしれません。反対に、基準が曖昧なまま権限だけ渡すと、担当者は自信を持って進められません。

だから、何を見て判断するかと、誰が判断するかを分けて残す必要があります。AIにできるのは、材料や確認事項を整理することです。本人が語った範囲を越えて、権限が移ったことにはできません。

今回も、将来の組織像や、判断に必要な条件の一部は聞けていません。質問の全項目を埋めた記録にはせず、未取得の項目を次に聞く材料へ残しました。

聞く側が、すべてを清書する形から離れた

もう一つ変えたのは、インタビュー後の整え方です。

従来のように、私が聞き、私がすべて清書して渡すだけでは、後で内容を足すたびに同じ手順が必要になります。今回は、録音と文字起こしをもとに整える作業を、顧客側のAIへ委ねる形にしました。

ここで、確認しておきたいことがあります。当日の内部メモには、記録から共有までつながったという評価があります。一方、後の準備メモには、整形した成果物が完成しているか未確認だと書かれています。

今回、私が最終成果物そのものを確認できていない以上、全員が読める状態になったとは言えません。確認できるのは、インタビューを実施し、整理を顧客側へ渡したところまでです。続きは、できあがった文書を本人が読み、利用する人のAIから実際に参照できるかで確かめます。

話した記録を、そのまま全員へ渡さない

インタビューでは、仕事の進め方だけでなく、個別の事情も出てきます。詳しく話してもらうための記録と、社内で共有する資料は、同じものにしない設計にしました。

共有用の資料では、個人を特定できる話や、共有範囲に合わない情報を外し、仕事に使える基準を残します。ただ短くするのではなく、「この人が読んで、何を判断できるか」を考えて整える作業です。

その際、AIが削った情報や迷った箇所を一覧にして、人が確認する。共有してよいかは、本人が判断します。資料を作る工程と、共有する判断を分ける必要があります。

また、自動文字起こしには誤変換がありました。録音の言葉を間違えたまま整えると、本人が言っていない基準を固定してしまいます。確認していない発言を、もっともらしい文章へ言い換えて終わらせないことも、今回の注意点でした。

次の一問を決めるための、短い記録

経営者や熟練者へ話を聞いたあと、次のように残すと、取材を続けやすくなります。今回の記録から編集した整理項目です。

  • 実際に起きた場面と、そのとき選んだこと。
  • 判断の決め手と、条件が変われば選択が変わる境界。
  • 担当者が決めてよい範囲と、本人へ戻す条件。
  • まだ聞けていないこと、発言確認が必要なこと。
  • 誰へ見せる資料かと、共有前の確認者。

すべてを一度に聞き切る必要はありません。今回も、聞けた実例と権限の範囲を残し、足りない条件を次へ持ち越しました。

経営者の話が文書になったこと、その文書をAIが読めたこと、実務の判断に使えたこと。この三つを別々に確かめながら進める。それが、頭の中の知識を仕事へ渡すために必要な手順だと考えています。

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