最近のサイバー攻撃は、AIのせいなのか。結論から言うと、この数か月に続いた大きな事件に、AIが使われたという発表はありません(2026年10月10日時点)。ただ、AIで攻撃がしやすくなっていることは、警察庁も、海外の政府機関も、AI企業も報告しています。怖いのは、AIの頭の良さより、悪用を断る仕組みを外せて、突破できるまで諦めずに試し続けられること。そして、生成AIで日本語の壁が消えたことです。だから会社がやることは、AI専用の新しい対策より先に、昔からある基本の対策を抜けなくやることです。
AiWiLL株式会社代表。AI顧問「WiLLAGENT」で、企業の仕事をAIと人が進められる形にする伴走支援を行っています。記事では、実務で使える手順と、人が確認すべき点を明らかにします。
この記事は、YouTube「AI顧問の現場録」で、熱海・糸川の橋の下で聞き手の高橋とダラダラ話した「オフ回」の記録です。撮影日(2026年10月10日)時点の内容で、報道と公的機関の資料で事実を確かめ、収録で言い過ぎた所は直しています。
この記事の結論
- 大手カーシェアの情報流出、クラウド事業者へのランサムウェア攻撃など、続いた事件にAIが使われたという発表はありません。
- それでも、AIで攻撃はしやすくなっています。警察庁は「生成AIで攻撃のハードルが下がり、高度な技術を持たない者でもサイバー攻撃を実行しやすくなる」と見ています。
- ChatGPTやClaudeは悪用の頼みを断り、提供元が悪用を見張っています。一方、重みが公開されたAIは手元で動かせて、断る仕組みを外した改変版も公開されています。
- 怖いのは頭の良さより、倫理を外せて、突破できるまで諦めないこと。生成AIで日本語の壁も消えました。
- それでも、侵入の入り口の多くは、更新していない機器や漏れたパスワードといった昔からある穴です。基本の対策が一番効きます。
- 最初の一歩は、会社のメールとクラウドの管理者アカウントに、2段階認証が入っているかを今日確かめることです。
動画で見たい方は、YouTube「AI顧問の現場録」の回をどうぞ:最近のサイバー攻撃はAIのせい!?倫理を外したAIが会社を狙う(2026年10月10日の収録)
集団訴訟に、加わらなかった理由
「ダラダラ喋りたい」という聞き手に、私が出したのは、少し前にオフィスで聞かれた話でした。カーシェアの情報流出の集団訴訟に「署名しましたよ。赤堀さん、しました?」。
私もそのカーシェアを使っていて、情報が漏れたというメールは届いています。でも、署名はしていません。会社の責任を追及すれば、社会的な制裁のようになる。会社を経営している身として、自分がその立場になったらと思うと、辛すぎて。もちろん、情報を漏らさないための努力を怠っていたなら、仕方ないと思います。
ただ、狙われる側の条件は変わってきています。それが、この回の本題です。
大手カーシェアの件は、9月25日に運営会社が不正アクセスを検知し、約660万アカウントの情報と、運転免許証などの本人確認書類の画像約160万件が第三者に取得されました。クレジットカードの情報は流出していないとされています。収録では「署名」と言っていますが、集団訴訟は、弁護士が開いたサイトでの参加登録の段階で、10月2日までに1万人以上が登録したと報じられました。
出典:運営会社の発表(第1報・2026年9月25日)発表ページ/時事通信(2026年9月28日)記事/秋田魁新報(2026年10月2日)記事
この数か月、大きな事件が続いた
聞き手は、サウナのテレビでニュースを見たそうです。「冷凍食品がスーパーから消えるかも」「クラウドの会社がやられて、490何社」「市とかもやられてる」。収録では一続きに話していましたが、実際は別々の事件です。並べると、こうなります。
| 時期 | 何が起きたか | AIが使われたという発表 |
|---|---|---|
| 2026年7月 | 冷凍食品・物流の大手がサイバー攻撃でシステム障害。取引先のスーパーや外食で欠品が出た。7月24日に全拠点が通常稼働へ | なし |
| 2026年9月 | 国の府省が共通で使うシステムに不正アクセス。VPN機器のぜい弱性を突かれ、約24.6万件の個人情報が漏えいした可能性(9月11日公表) | なし |
| 2026年9月 | 大手カーシェアのWebサイトに不正アクセス。約660万アカウントの情報と、約160万件の本人確認書類の画像が取得された | なし |
| 2026年10月 | 大手クラウド事業者がランサムウェア攻撃を受け、契約する495の企業・自治体に影響。県や市のサイトが見られなくなった | なし |
出典:ITmedia(2026年7月17日)記事/LNEWS(2026年7月24日)記事/デジタル庁(2026年9月11日)発表ページ/ITmedia(2026年9月14日)記事/時事通信(2026年10月7日)記事/Impress Watch(2026年10月8日)記事
どの事件にも、AIが使われたという発表はありません。動画のタイトルは「AIのせい!?」と問いの形にしましたが、答えは「分かっていない」です。
一方で、クラウドの件は別の怖さを見せました。1社のクラウドが止まると、それを使う数百の会社と自治体が一緒に止まる。しかも、その一部のデータは「取り出しや復元が困難な見通し」と報じられ、戻せるのは利用者自身が持っているバックアップからに限られるとされました。IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」でも、組織向けの2位は「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」です。IPAの発表
倫理を外したAIがある
では、AIは攻撃とどう関係しているのか。収録で私が話したのは、「ローカルLLM」のことでした。
ChatGPTに「これやって」と頼むと、裏では提供元の大きな計算機が計算して、答えを返してくれます。ローカルLLMは、その計算を自分の計算機でやるものです。AIの本体(重み)をダウンロードして、手元で動かす。大きなモデルは、普通のパソコンに入れても動きません。メモリもディスクもCPUもいっぱいになって、パソコンが落ちます。ただ、高性能な機材をそろえれば、手元で動かせてしまいます。
ChatGPTやClaudeは、すごく安全に作られています。「この人の情報を取ってきて」「このシステムを壊して」と頼んでも、「できません」と返ってくる。ところが、手元で動かすAIは、その倫理の部分を取り払えてしまうんです。聞き手は「脱法だ」と言っていました。
これは収録の話だけではありません。Anthropic(Claudeの開発元)は2026年9月29日、中国の企業が重みを公開した大きな言語モデルについて、攻撃コードを作る能力が高いと報告しました。そのモデルは、そのままでは明らかに悪意のある頼みを断ります。ところが、簡単なやり方で64〜100%の確率で断る仕組みを回避できた。さらに、断る仕組みを外した改変版が、公開から数日で複数の開発者によって一般に公開されたといいます。実際の攻撃に使われたという報告はありませんが、Anthropicは「国家や国家以外の攻撃者が、こうしたモデルを使って現実の被害を出す可能性が高い」と見ています。Anthropicの報告
図解
ChatGPT・Claudeなど
提供元の大きな計算機で動く。悪用の頼みには「できません」と返し、提供元が悪用を見張って止める
悪用の試みはゼロではない。提供元が見つけて止めた事例を公表している
重みが公開されたAI
自分で用意した計算機で動かす。大きなモデルは普通のパソコンでは動かない
断る仕組みを外せる。外した改変版も公開されている。見張る人も、止める人もいない
ここで一つ、自分の話に反論しておきます。ChatGPTやClaudeも、悪用の試みとは無縁ではありません。Anthropicは、攻撃者がClaudeを悪用しようとした事例を見つけて止めたことを、定期的に公表しています。Anthropicの脅威レポート(2026年9月) だから違いは「AIが安全か危険か」ではなく、悪用を見張って止める人がいるかどうかです。手元で動かすAIには、それがいません。
怖いのは、頭の良さより「諦めなさ」
収録では、ChatGPTやClaudeのほうがはるかに頭がいい、と話しました。最先端のAIが上なのは今も確かですが、差は縮まっています。先のAnthropicの報告では、攻撃コードを作る試験で、公開されたモデルが410回中50回成功し、Anthropicの最先端モデルの56回に近い成績でした。
それでも、私が一番言いたかったのはここです。めちゃくちゃ頭がいいからハッキングできるんじゃない。一定の動きができるAIが、倫理がないから、いくらでもアタックできる。天才じゃなくても、諦めない心で何度もアタックし続けたら、破れることがある。あれが今、起きているんです。人間と違って、突破できるまで、あらゆる手段を試すことができてしまう。
聞き手は、三国志の呂布にたとえていました。倫理なく、人をなぎ払う。言い得て妙です。
図解
頭の良さ
最先端のAIのほうが上。ただ、差は縮まっている
倫理
外せる。悪用の頼みを断らない
諦めなさ
疲れず、突破できるまで何度でも試す
公的機関の見立ても同じ方向です。警察庁は2026年9月の報告で、高性能なAIが攻撃者に悪用され、サイバー攻撃がより高速かつ大規模に行われるリスクを挙げ、「生成AIで攻撃のハードルが下がることにより、高度な技術を持ち合わせない者であっても、サイバー攻撃を実行することが容易になると考えられる」と書いています。同じ報告には、AIで作ったソースコードを組み合わせてランサムウェアを作った19歳の会社員を、2026年6月に逮捕した事例も載っています。警察庁「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」
Anthropicの2026年9月の脅威レポートでも、攻撃者のAIエージェントが、検知されなくなるまで攻撃の道具を直し続けた事例や、攻撃コードを成功するまで書き直し続けた事例が報告されています。人が決めていたのは、主に狙う相手と、盗んだものの確認でした。
日本語の壁が、消えた
もう一つ、収録で話したのが日本語の壁です。日本は、海外の人から見ると難しい日本語という言語に守られていたところがありました。不自然な日本語のメールなら、怪しいと気づけた。生成AIで、その壁がなくなりつつあります。
図解
これまで
不自然な日本語で、怪しいメールだと気づけた
いま
生成AIで、自然な日本語の文面を誰でも作れる
これから
文面の不自然さで見抜く前提が崩れる。仕組みで守る
英国の国家サイバーセキュリティセンター(NCSC)は2024年1月、生成AIによって、これまでフィッシングを見破る手がかりだった翻訳・つづり・文法の誤りのない文面が作れるようになると評価しました。NCSCの評価 日本プルーフポイントも、日本のビジネスメール詐欺が前年比35%増えたという自社の調査(2024年版)を挙げ、生成AIで多言語の完璧な文面を書かせられるようになったと指摘しています。日本プルーフポイントのブログ(ScanNetSecurity掲載) 増えた原因がすべてAIだとは言えませんが、「日本語が変だから気づける」は、もう当てにできません。
入り口は、昔からある穴
ここまで読むと、AIに対抗するAIの対策が要るように思えるかもしれません。でも、先に見てほしいのは入り口です。
警察庁の2026年9月の報告では、ランサムウェアの被害報告は半期で123件と過去最多。被害企業の約6割が中小企業でした。侵入経路はVPN機器が約5割を占め、攻撃者は「未修正のぜい弱性や漏えいした認証情報等を悪用して」入ってくるとしています。上の表の、国の府省が使うシステムの件も、入り口はVPN機器のぜい弱性でした。
図解
更新していない機器
VPN機器などのぜい弱性。ランサムウェアの侵入経路の約5割
漏れた・弱いパスワード
漏えいした認証情報や、推測しやすいID・パスワード
預け先・委託先
クラウドや委託先が止まると、自社も一緒に止まる
AIが攻撃を速く、大量にしても、狙われるのは同じ穴です。穴をふさいでおけば、何度試されても入れません。逆に言えば、AIで攻撃が増えるほど、基本の対策を抜かしている会社から順に当たります。
自社でAIを使うときに、どの情報を入れてよいかはAI導入のセキュリティと情報入力の考え方に、社内でAIを使うルールのひな形は生成AIの社内ルールの作り方に書いています。この記事は、外から攻めてくる側の話です。
持ち帰り:今日確かめる、基本の6つ
最初の一歩は、会社のメールとクラウドの管理者アカウントに、2段階認証が入っているかを今日確かめることです。そのうえで、IPA(情報処理推進機構)が中小企業向けにまとめた「情報セキュリティ6か条」を、自社に当てはめて確かめてください。
図解
OS・ソフト・機器を最新に
パソコンだけでなく、VPN機器などのネットワーク機器も。サポートの切れた機器を使わない
ウイルス対策ソフト
全台に入れ、定義ファイルを自動で更新する
パスワードを強く
長く・複雑に・使い回さない。管理者アカウントやVPNには2段階認証(多要素認証)を
共有設定を見直す
クラウドや複合機の共有範囲を絞る。辞めた人・異動した人のアカウントをすぐ消す
バックアップを取る
定期的に取り、戻せるかを確かめる。クラウドに預けたデータも自社で持つ
手口を知る
IPAなどの注意喚起を見る。社員が「おかしい」とすぐ言える状態にする
出典:IPA「情報セキュリティ6か条」(Version 2.1・2026年6月15日)資料。項目の言い換えと「クラウドに預けたデータも自社で持つ」は、上のクラウドの件を受けて補ったものです。
試したら、次の3つも確かめてください。
- 自社が使っているクラウドや委託先を、一覧で言えるか。
- そこが止まったとき、何日なら業務を回せるかを決めているか。
- 被害に気づいたとき、誰が警察や取引先に連絡するかを決めているか。
まとめ
最近のサイバー攻撃がAIのせいかどうかは、分かっていません。続いた事件に、AIが使われたという発表はないからです。それでも、倫理を外したAIが手元で動かせるようになり、突破できるまで諦めずに試せるようになり、日本語の壁も消えました。高度な技術がない人でも、攻撃しやすくなっています。
ただ、攻撃者が入ってくるのは、更新していない機器や漏れたパスワードといった、昔からある穴です。AIの時代の守りは、新しい対策より先に、基本を抜けなくやることから始まります。
最初の一歩として、会社のメールとクラウドの管理者アカウントに、2段階認証が入っているかを今日確かめてください。
※撮影日(2026年10月10日)時点の内容です。事件の調査は続いており、今後の発表で事実が変わることがあります。

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