ベテランや職人の技は、AIで会社に残せるのか。手の感覚そのものは残しきれなくても、「何を、どの順番で、どう準備するか」という情報は残せます。そして、新しく入った弟子が「次は何をしたらいいですか?」と聞ける相手を、AIで用意できます。

赤堀亘
執筆・監修 AiWiLL株式会社 代表取締役 赤堀亘

AiWiLL株式会社代表。AI顧問「WiLLAGENT」で、企業の仕事をAIと人が進められる形にする伴走支援を行っています。記事では、実務で使える手順と、人が確認すべき点を明らかにします。

この記事は、YouTube「AI顧問の現場録」で、聞き手から「知り合いの老舗のランドセル屋さんなら、AIで何を提案できるか」というお題をもらって答えた回の記録です。ランドセル屋さんは私の顧問先ではなく、聞き手が出したお題です。

この記事の結論

  • 職人の技術継承は、3つの段階でAIに手伝わせられます。職人の手元を目線ごと録画する。工程ごとの手順書にまとめる。新しい弟子の「まず何を準備したら?」にAIが答えられる状態にする。
  • 一度うまくいった仕事は、AIに「また再現できるように保存しておいて」と頼めば、やり方ごと残せます。人の会社でいえば、業務マニュアルを残すのと同じです。
  • 段取りは、「今日何したらいい?」と聞けば出てくる状態にできます。
  • 会社のことを教え込んだAI社員は、同じデータを渡せば、右腕の社員にもコピーできます。
  • 最初の一歩は、ベテランの仕事を1つ選び、手元を録画して、AIに手順書にしてもらうことです。

動画で見たい方は、YouTube「AI顧問の現場録」の回をどうぞ:職人の弟子が、AIに聞きながら一人前に。技術継承をAIでやる方法(2026年7月の収録を、編集し直した版です)

「この人がいなくなったら困る」会社に、AIはまだ届いていない

聞き手が気にしていたのは、AIをバリバリ使っている会社ではなく、AIの存在は知っていても縁遠い業界でした。私の顧問先でいえば、消防点検の会社や老舗の旅館です。専門職が多く、自分たちの商品の魅力もまだ掘り下げきれていない。社内がごたついていて、「この人がいなくなったら大変だ」という状態の会社が多い、という見立てです。

そういう会社にこそ、AIで何ができるかを掘り起こして届けたい。そこで出てきたのが、老舗のランドセル屋さんというお題でした。

前提:パソコンの中の仕事なら、大半はAIに任せられる

今のAIは、ほぼ何にでも使えます。頭で考えられることはアウトプットできますし、最近はパソコンの中で動けるので、パソコンの中でできることは大体AIもできます。経営の判断や戦略、事業づくり、売り方まで、経営の全範囲で使えます。

ランドセル屋さんならではの仕事は、新商品の開発と製造です。そこで最初にAIに頼めることは、たとえば次のようなものです。

図解

競合を調べる

競合他社がどんなことをしているか

売れている革製品を調べる

市場で何が売れているか

コストを出す

仕入れ値と製造コスト

販売価格を一緒に考える

調べた結果から

売る準備をする

写真や映像を渡して、ランディングページ、SNSの投稿、紹介動画の編集まで

ランドセル屋さんで、まずAIに頼めること

方向を決めるのは人、手数を出すのはAI

聞き手からは「リサーチ会社に頼むのと、社内で何年も調べてきた人と、AIで調べるのとでは、どれくらい質が違うのか」と聞かれました。

リサーチには、手数と方向の2つがあります。どこで、どんな情報を集めて、どんな成果を得るのか。この設計がいちばん大事です。たとえば、ネットで売れているものや話題になっているものから新商品を考えたいなら、TikTokやX、YouTube、Amazonの売れ筋、口コミやコメントまで集めて、「利益率が高く、見映えがよく、売りやすいものを探して」と条件で絞ってもらう頼み方になります。この調べ方を、まず提案できることが大事なのです。

人がピンポイントで狙う調査を、AIに「とりあえずやっといて」と投げれば、人のほうが質の高い調査ができます。ただ、求めているのが100点でいいなら、AIで十分です。

うまくいった仕事は、AIに「型」として残す

AIと一つずつ丁寧に進めれば、どの分野でも合格ライン以上のアウトプットは出せます。そして一度、AIと一緒に頑張って「リサーチはこうやるのか」という出来のものを出せたら、「また同じことをやるときに再現できるように記憶しておいて」と頼むだけで、そのやり方をストックできます。

人の会社でいえば、業務マニュアルを残すのと同じことです。今のAIエージェントには、それができます。収録の日も、顧問先の不動産会社で「これ、また再現できるように保存しておいて、と言えばいいですよ」と伝えたばかりでした。

図解

  1. AIと一つずつ丁寧に進める

    任せきりにしない

  2. 一度、一緒にやり切る

    合格ライン以上のものを出す

  3. 再現できるように記憶させる

    「また再現できるように保存しておいて」

  4. いつでも出せるようにストックする

    次からはその型で動く

いい仕事を、型として残す

決まった仕事をAIに任せられると、人は空いた時間と頭を、今の仕事をもっと良くすることに使えます。計画、実行、確認、改善のくり返しです。事業で一番価値があるのは、新しい価値を生み出して、今より良い状態にしていくことだからです。

技を継ぐ3つの段階:録画、手順書、AIの伴走

聞き手の次の問いは「職人が減っていくなかで、技術は継承できるのか」でした。情報を残すという意味なら、できます。聞き手からは「目の横にカメラを付けて、職人がどういう目線で作業しているかを残したらどうか」という案も出ました。

図解

  1. 録画する

    職人の手元を、目線ごと残す

  2. 工程ごとの手順書にする

    要所の動き、準備、順番をAIにまとめてもらう

  3. AIが弟子に伴走する

    新しい弟子の「次はどうしたら?」に、AIが段取りを答える

技を継ぐ、3つの段階

手順書があれば、弟子は学びやすくなります。さらにAIが伴走できる状態にしておけば、新しい弟子の質問にAIが答えられます。

再現イメージ

弟子

まず何を準備したらいいですか?

AI

最初に、今日の工程で使う材料と道具をそろえて、機械の電源を入れましょう。準備ができたら、次の工程を案内します。

弟子の質問にAIが答える場面。動画の話をもとに作った例で、実際のやり取りではありません

最初は親方の仕事を見て学ぶ。次に、AIに聞きながら自分でやってみる。そうやって、最後は職人として一人前になる。仕事の段取りの面倒を、AIに見てもらうわけです。

ただし、手の感覚そのものは、録画や手順書だけでは残しきれません。AIで残せるのは情報です。仕上がりを見るのは、これまでどおり親方の仕事です。

段取りは「今日何したらいい?」で出てくる

これは、私自身が毎日やっている使い方です。私には案件がたくさんあり、いつどこのイベントに行くか、そのために何を準備するかといった予定もあります。そのほぼすべてを、AIと一緒に作ったタスクボードに入れています。

再現イメージ

赤堀

今日何したらいい?

AI

〇〇さん向けの資料を作りましょう。明日は顧問先の現場なので、次のレクチャーの準備も今日やっておきましょう。

同行する人とは、事前に目線を合わせておきましょう。月初なので、請求書も出しましょう。

赤堀が毎朝AIに聞くときのやり取り。動画で話した内容を、やり取りの形に書き直しました

その日にやったことと、次にやろうと思っていることを伝えると、それも覚えて次の段取りに反映してくれます。仕事をまだ覚えきれていない新人が、こうやって仕事の段取りをAIに見てもらう。これは技術の継承にかなり役立つと思っています。

聞き手は、お笑いの世界で、師匠への弟子入りだけでなく養成所で育てる仕組みができた話を挙げて、それがAIでできるのではと言いました。できると思います。たとえば不動産会社が建物を1棟借りて活用する仕事なら、工事の依頼、テナントへの周知、使い方の企画と、やることがたくさんあります。過去にどうやったかを残しておけば、次に同じような物件を借りたときに「こういう物件を借りた。どうしたらいい?」と聞くだけで、AIが作業の分解表とToDoを出してくれます。そこから「このToDoは新しい人に振ろう」と割り振れます。

答えは、育つAI社員。コピーして渡せる

ランドセル屋さんへの提案をまとめると、こうなります。会社が抱えている課題や得たい成果を解決するための提案とサポートができます。そして、働き方を変えられます。

AIに自分たちのことを教えれば教えるほど、自分たちのことを分かったうえで仕事をしてくれるAIエージェントができていきます。AiWiLLでは、これをお客さんと一緒に作る「AI社員」と呼んでいます。会社のことを一番知っていて、24時間365日働き、いつもそばで知識を吸収してくれる、情報を取り込む力がとても高い社員です。

しかも、コピーできます。自分専用に育てたAI社員と同じデータを右腕の社員に渡せば、その人も、私が育てたやり方や考え方を、自分のAIに聞けるようになります。

図解

  1. 自分専用に育てる

    自分の仕事のやり方を教え込む

  2. 同じデータを渡す

    右腕の社員に

  3. 同じやり方で動く

    右腕の社員も、自分のAIに聞ける

育てたAI社員は、コピーできる

ランドセル屋さんへの提案は、ひとことで言えば「AI社員を作ろう」でした。

持ち帰り:技術継承を始める手順

順番やること人が確かめること
1継ぎたい仕事を1つ選ぶ「この人しかできない」と言われている仕事か
2職人の手元を、目線に近い位置から録画する工程の始まりから終わりまで映っているか
3録画をAIに渡して、工程ごとの手順書にしてもらう職人本人が読んで、違うところを直す
4手順書をAI社員に覚えさせる新しい人の質問に、手順書どおりに答えられるか
5新しい人に、AIに聞きながら作業してもらう仕上がりは親方が見る

経営の判断を次の世代に残す方法はAI事業承継とは、言葉にしにくい知恵を人とAIが使える形にする考え方は考脈学、AI社員の作り方は「AI社員」の作り方にまとめています。

まとめ

職人の技術継承は、録画、手順書、AIの伴走という3つの段階でAIに手伝わせられます。一度うまくいった仕事は型としてAIに残し、段取りは「今日何したらいい?」で出てくる状態にする。そうやって育てたAI社員は、右腕の社員にも渡せます。

最初の一歩として、ベテランの仕事を1つ選び、手元を録画して、AIに手順書にしてもらってください。

医療、建設、農業、営業、製造、飲食など、さまざまな仕事の人が並ぶAiWiLLのキービジュアル。AIを使いこなす会社は、イケてる。

伴走型AI顧問 WiLLAGENT

初月10万円で、AI顧問、使い放題。

月2回・隔週90分の定例枠で、AI社員の開発・改善、社員研修、導入設計・戦略、会社訪問を、御社の仕事に合わせて選べます。定例の間もチャットで相談できます。

初月10万円、翌月から月30万円。最低3か月・総額70万円(いずれも税別)。訪問の交通費、AIツール利用料は別途実費です。

AI顧問の内容と料金を見る