紙の伝票と電話で注文を受けている会社にも、AIは普段使っているLINEから入れられます。社員10名ちょっとの水産の会社では、電話で受けた注文をLINEに送るだけで、注文がデータとして残り、納品書や請求書、クール便の配送票までできる「AI社員」を、現場の方と一緒に作っています。裏側の本体は、過去の取引データから作る取引先と単価のデータベースです。完成品を渡すより、現場で触りながら一緒に作るほうが、現場は使ってくれます。ただし導入は始めたばかりで、定着や効果はこれからです。

赤堀亘
執筆・監修 AiWiLL株式会社 代表取締役 赤堀亘

AiWiLL株式会社代表。AI顧問「WiLLAGENT」で、企業の仕事をAIと人が進められる形にする伴走支援を行っています。記事では、実務で使える手順と、人が確認すべき点を明らかにします。

この記事は、YouTube「AI顧問の現場録」で、顧問先へ向かう車の中で、聞き手の質問にAI顧問の私が答えた回の記録です。撮影日(2026年10月5日)時点の内容です。

この記事の結論

  • 港で仕入れて卸す水産の会社。仕入れは紙で管理し、当日の注文は電話で受けてメモ帳に書き、現場へ渡しています。注文をさばくので手一杯で、お客さんへの提案に時間を使えていません。
  • 社長の目標は、一人ひとりの生産性を上げること。まず手作業を減らし、次に売上を上げる仕事を増やします。
  • 入口は、みんなが普段使っているLINEです。電話のメモを打つか、メモの写真を送るだけで、注文がデータになり、納品書・請求書、クール便の配送票まで作る仕組みを作っています。
  • 裏側の本体はデータベースです。過去の取引データや資料、メールから、取引先と単価のデータベースを作っています。ここができれば、LINEからいろいろな資料を作らせられます。
  • 現場で一緒に作ると、「文字を大きく」「ここは赤字で」がその場で反映され、導入がすんなり進みます。今のやり方で困っていない現場は、完成品を渡されても使いません。
  • 導入は始めたばかりです。分かっているのは、仕組みが今のところスムーズに動いていることと、現場が「LINEで仕事が進む」のを見て感動してくれたところまでです。

動画で見たい方は、YouTube「AI顧問の現場録」の回をどうぞ:紙と電話で回る水産の会社に、LINEで動く「AI社員」を入れた話(2026年10月5日の収録)

紙と電話で回る現場

この日向かっていたのは、水産の会社の現場です。港で魚を仕入れて、飲食店やホテルに卸す。食品加工をして、ネット販売もしている。昔からある会社で、昔からのやり方で回っています。

紙にあふれています。市場での仕入れも、買ったものは全部紙で管理しています。当日の注文は電話で来るので、電話を受けたらメモ帳に書き、「これ注文来たから」と現場の方に渡していきます。

図解

  1. 受ける

    電話で注文が来る。メモ帳に書く

  2. 渡す

    「これ注文来たから」と、メモを現場へ渡す

  3. 用意する

    仕分けて、パッキングして、発送する

  4. 書類を作る

    注文ごとに、納品書や請求書を作る

注文が来てから届けるまで(今のやり方)

注文をさばいて終わる一日

社長の一番の願いは、事業を大きくするために、社員一人ひとりの生産性を上げることでした。最初にやりたいのは、アナログな仕事で一人ひとりが取られている時間を減らすこと。つまり業務の効率化です。

ただ、その次があります。業務の削減には限界があります。だから次は、売上を上げる仕事をどれだけ増やせるか。AIを入れてみんなを楽にするだけでなく、生産性を上げることが、この会社の最終的な目標です。

社員は10名ちょっとで、現場とバックオフィスが半分ずつです。現場に出て仕入れる人、仕入れたものを仕分けて発送する人、お客さんとやり取りする営業がいます。一方で、注文が来るたびに納品書や請求書を作る仕事や、パッキングの作業も多くあります。そのため、お客さんとのコミュニケーションに使う時間が、意外と取れていません。

「今日こういうのを仕入れてきたんだけど、どう?」と営業できれば、売上に直結します。本来ならお客さんにいろいろ提案できるのに、今ある注文をさばくのに手一杯で、来る注文だけをさばいて一日が終わってしまう。それが今の状況です。

図解

手作業を減らす

アナログな仕事で、一人ひとりに取られている時間を減らす

まず

売上を上げる仕事を増やす

空いた時間で「今日こういうのを仕入れたけど、どう?」と提案する

次に。業務の削減には限界がある

この会社が目指す順番

忙しすぎる社長が、先に何から手をつけるかは、現場のプロ×AIは「掛け算」にも書いています。

紹介から始まった導入。AIを使うと、仕事が一段上がる

この会社の支援は、すでに支援している顧問先からの紹介で始まりました。紹介してくれた会社からは、AIを入れて業務がすごく良くなっただけでなく、社員の意識が変わってきた、という口コミをいただいていました。

AIの機能で業務が変わるだけでなく、スタッフ自身の考え方が変わる。そういう副次的な効果が、結構あります。AIを触るのは、新入社員に仕事を頼み、仕事をこなしてもらいながら育てていく、その疑似体験になるからです。一人のスタッフから、マネージャーへ。仕事のレイヤーが1つ上がります。紹介してくれた会社でも、若い社員さんたちが、AIを使うことで、作業者からマネージャーの動きができるようになってきました。

図解

作業者

自分の手で、決まった作業をこなす

これまで

マネージャー

AIに仕事を頼み、できたものを確かめ、直してもらう

AIと働くと

AIを使うと、仕事のレイヤーが上がる

人に仕事を頼んだ経験が、AIを使えるかどうかの分かれ目になる話は、社員がAIを使ってくれない理由にまとめています。

現場の一日を見せてもらい、LINEから始めた

この会社では、次の順番で進めました。まず、社長が気にかけている、生産性が低いところを聞いておく。そのうえで現場に行き、実際に働いている人が1日どう動いているか、どう仕事を進めているか、どんな道具を使い、どんな資料を作っているかを、流れで見せてもらいました。

そこで見えたのが、「注文が来た時点でAIに打ち込めば、納品書をすぐ作れそうですよ」というところです。じゃあ実際にやってみましょうか、この一連の業務を一回AIでできるようにしてみましょうか、と提案しました。

ただ、AIを使うことのハードルを上げると、現場から反発も出てきます。そこで、普段使っているLINEを起点に、その業務をできるようにしてみましょうか、と進めました。

図解

  1. 聞く

    社長が気にかけている、生産性の低いところを聞く

  2. 見る

    現場で働く人の1日、使っている道具、作っている資料を流れで見せてもらう

  3. 一つ選ぶ

    「注文が来た時点でAIに打ち込めば、納品書をすぐ作れそう」という業務から始める

  4. 入口はLINE

    新しい道具を覚えなくていいよう、普段使っているLINEから動かす

  5. 広げる

    業務ごとにAI社員を作る。慣れたら、社員さん自身がAI社員を作れるようにする

この会社での進め方

一つひとつの業務をAIができるようにしながら、業務ごとにAI社員をいくつか作っていく。社員さんがだいぶ慣れてきたら、次は社員教育として、社員さん自身がAI社員を作れるようにしていく。そう話をして要件が決まり、実際の支援につながりました。

AI社員とは:会社のことを知っていて、いつものチャットから呼べるAI

今いちばん力を入れているのは、日々の業務を減らすためのAI社員を作ることです。

まず、業務のこと、会社のこと、働いている人のこと、つまり会社のことを知っているAIを作ります。そして、そのAI社員をみんなが使える状況にします。LINEやSlack、Chatworkのように、普段使っているメッセージツールを起点にAI社員を作り、従業員のみんながそのAIにメンションするだけで、裏側でAIが動いて業務をこなしてくれる。この状況を作ることを、私たちはAI社員の導入と呼んでいます。

AI社員の定義は、AI社員とは|チャットの相手ではなく、職場を持った働き手に書いています。

電話のメモをLINEに送るだけで、納品書と配送票に

今作っているのは、スタッフさんが注文を受けたら、LINEにその注文を書くだけ、メッセージを送るだけで、納品書や請求書ができる仕組みです。

みんな普段は紙でメモを取っているので、電話が来たらすぐLINEに打ち込むだけ。メモを書いたとしても、写真を撮ってLINEに送るだけ。それで「○○さんのところに、牡蠣を何個、アワビを何個、サザエを何個」というのが、データとして保存されます。そこからすぐに納品書を作ったり、クール便で送るときは配送票を作ったり。そこまでを、裏側でAIエージェントが動いて、まるっとやってくれます。今のところ、すごくスムーズに進んでいます。

再現イメージ

スタッフ

○○さんから電話。牡蠣20個、アワビ5個、サザエ10個。明日の午前着、クール便で

AI社員

注文を記録しました。○○さん宛ての納品書と、クール便の配送票を作りました。内容を確かめてください。

スタッフ

手書きの注文メモの写真

AI社員

写真の注文を読み取って記録しました。読み取った内容が合っているか、確かめてください。

スタッフがLINEで注文を送るときの形(品物の数や日時は例で、実際のやり取りではありません)

図解

  1. 送る

    電話のメモを打つか、メモの写真を撮ってLINEに送る

  2. 残す

    AIが「誰に、何を、いくつ」を注文のデータとして保存する

  3. 作る

    注文のデータから、納品書や請求書を作る(今はPDFで出す)

  4. 送り出す

    クール便で送るときは、配送票まで作る

LINEに送ってから、書類ができるまで

本体はデータベース。過去の取引から、取引先と単価を作る

裏側でやっているのは、注文データのデータベースをAIに作らせ、そのデータベースをもとにAIが資料を作る、という流れです。

この仕組み自体は簡単にできました。今やっているのは、必要なデータベースと、そこに入れるデータを集めることです。請求書や納品書を作るには、お客様のデータや商品の単価が必要になります。そこで、過去の取引データや資料、メールから、取引先のデータベースと単価のデータベースを作っています。

図解

注文

LINEで送られた「誰に、何を、いくつ」

毎日たまっていく

取引先

お客様のデータ

過去の取引データやメールから作る

単価

商品ごとの値段

過去の資料から作る

AI社員の裏側にあるデータベース

このデータベースさえできてしまえば、あとはAIがそこにアクセスできれば、LINEから何なりと資料を作らせられます。

今は請求書などをPDFで出させています。会計や請求のサービスには、AIからつなぐための口(MCPやAPI)を用意しているものがあります。つなげば、請求書を作ってメールで送るところまで広げられます。たとえばマネーフォワードは、『マネーフォワード クラウド会計』で、AIエージェントから会計業務を実行できるリモートMCPサーバーとAPIを、2026年3月26日から全プランで提供しています。どの業務がどの口からできるかは、使うサービスの公式情報で確かめてください。出典:株式会社マネーフォワード プレスリリース(2026年3月26日)。発表ページ

だから今は、データベース作りに力を入れています。

AIとサービスをつなぐ「MCP」

MCPとは、AIがウェブサービスを操作するための、つなぎ方のひとつです。AIが、SlackやマネーフォワードやGmailのようなサービスにつながるには、主にAPI、MCP、CLI(コマンドライン)の3つの手段があります。

図解

API

サービスが用意している、プログラムから使うための窓口

MCP

AIがサービスを使うための共通の差込口(Model Context Protocol)

CLI

コマンドを打って操作する道具(コマンドライン)

AIとサービスをつなぐ3つの方法

MCPは、Anthropicが2024年11月25日に公開した、AIとデータや道具をつなぐためのオープンな規格です(Anthropicの発表)。経営者として何を決めればいいかは、MCPとは|AIを会社の道具につなぐ規格と使い方を、経営者の言葉でに書いています。

一緒に作ると、現場は使う

導入はまだ始めたばかりです。それでも、LINEで仕事が進んでいくのを目で見て体験できるので、社長にも現場の皆さんにも、かなり感動していただけます。

たとえば、出てくるPDFについて「もっと文字を大きくして」「ここは赤字で出るようにしたい」という声が出ます。普通の開発なら、「ここを変えてほしい」と伝えて、「お待ちください、1週間後に」となるのが一般的なイメージだと思います。でも私たちはAIで開発していて、裏側もAIが動いています。言ってもらったその場で、AIに指示を打ち込んで変更を加えていけるので、すぐに反映されます。会社の方からも「すごい、もう反映されたの?」という反応がありました。

訪問して、お客さんと直接アプリを触りながら、話しながら開発する。これを普段よくやっていて、楽しみにしてもらえています。私たちもやっていて面白いです。リアルタイムで一緒に作り上げている感じがあります。

これが大事なのは、導入のハードルがあるからです。「こういう仕様になったので、使いこなしたら便利ですよ」と会社に入れるのは、かなりハードルが高い。経営者からすれば、生産性が上がり、データも残るので、普段のやり方を変えてほしい。でも従業員からすれば、今のやり方に慣れていて、今のやり方で問題がない。わざわざ新しいやり方を覚えるのは面倒です。だから導入は、あまり進まなかったりします。

図解

完成品を渡す

「この仕様で使えば便利です」と渡す

今のやり方で困っていない現場には、覚える理由がない

一緒に作る

現場で触りながら「文字を大きく」「ここは赤字で」をその場で反映する

自分が使いやすい形になり、導入がすんなり進む

完成品を渡す、と、一緒に作る

一緒に作ったものを、自分のやりやすい、いいものに調整しながら開発していくと、導入は結構すんなり進みます。だから私たちは、会社を訪問することを重視しています。AIが社内で止まる会社に共通することは、AIが社内で止まる会社の2つの共通点にまとめました。

人間の仕事は、人と話すこと

私は会社訪問が好きです。会社によって、カルチャーがまったく違います。そのカルチャーに触れて、みんなの仕事を知れるのが楽しいのです。

私たちAiWiLLは、驚くほど物がないくらいデジタル化している会社です。ほとんどの業務は、AIがやっています。では人間の仕事は何かというと、人と話すことです。人と話したいから、ほかのことはやらなくて済む状態を作っている、と言ってもいいくらいです。

この水産の会社でAI社員を入れるのも、同じ理由です。注文をさばく手作業をAIに任せて、「今日こういうのを仕入れたけど、どう?」とお客さんと話す時間を取り戻す。それが、この導入で目指していることです。

分かっていること、まだ分からないこと

収録の時点(2026年10月5日)で分かっているのは、次のところまでです。

  • LINEに注文を送ると、納品書や請求書(今はPDF)が出る仕組みを作っていて、今のところスムーズに動いている。
  • 取引先と単価のデータベースは、過去の取引データやメールから作っている途中。
  • LINEで仕事が進むのを見て、社長も現場も感動してくれた。

一方、現場に定着したか、作業の時間がどれだけ減ったか、売上につながったかは、導入を始めたばかりなので、まだ分かりません。

この方法が向かない場合

どの会社でも同じように進むわけではありません。次の場合は、先に別のことから始めてください。

  • 取引先や単価のデータがどこにもない:AIは、何をもとに納品書や請求書を作ればいいか分かりません。過去の伝票やメールを集めるところから始めます。
  • 現場が普段LINEを使っていない:入口は、現場が普段使っているツールに合わせます。SlackやChatworkでも、考え方は同じです。
  • 注文を送るアカウントが決まっていない:注文には、取引先の名前や品物が入ります。どのアカウントから、誰がAI社員に送るのかを、先に決めておいてください。
  • 完成品を買って、配るだけにしたい:この話は、現場と一緒に作って、その場で調整していく進め方の記録です。

持ち帰り:紙で受けている仕事を1つ選んで、LINEに送るだけにする

最初の一歩は、紙で受けている仕事を1つ選んで、LINEに送るだけにすることです。全部の業務を一度に変えようとしなくて大丈夫です。

図解

  1. 書き出す

    紙やメモで受けている仕事を、全部書き出す

  2. 選ぶ

    毎日あって、決まった書類ができる仕事を1つ選ぶ(例:電話の注文から納品書)

  3. 確かめる

    その書類に要るデータ(取引先・単価)が、どこにあるかを確かめる

  4. 送るだけにする

    まずは、その仕事のメモをLINEに送るところから始める

最初の1つの選び方(例)

選ぶときは、社長が困っているところだけでなく、現場の人が毎日やっている流れを見せてもらうのが近道です。会社のことをAIが読める形で置いておく考え方は、AIに毎回説明するのは、もうやめようにまとめています。

まとめ

紙と電話で回る会社にも、AIは普段使っているLINEから入れられます。社員10名ちょっとの水産の会社では、電話のメモをLINEに送るだけで、納品書や請求書、クール便の配送票までできるAI社員を、現場の方と一緒に作っています。裏側の本体は、過去の取引から作る取引先と単価のデータベースです。完成品を渡すのではなく、現場で触りながら一緒に作ると、現場は使ってくれます。手作業をAIに任せて取り戻したいのは、お客さんと話す時間です。

最初の一歩として、紙で受けている仕事を1つ選んで、LINEに送るだけにしてみてください。

※撮影日(2026年10月5日)時点の内容です。導入は始めたばかりで、定着や効果はまだ分かっていません。

医療、建設、農業、営業、製造、飲食など、さまざまな仕事の人が並ぶAiWiLLのキービジュアル。AIを使いこなす会社は、イケてる。

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