「うちにAIはいらない」と言う社長に、私はまず「御社が一番大事にしているものは何ですか」と聞きます。お客さんと電話でやりとりし、紙に残すこと自体が価値の会社なら、今のままでいい。自社の技術で商品を作ることが価値なら、紙・電話・FAX・手入力に取られている時間を減らして、そこへ回すべきです。社員が嫌がる、情報が漏れる、使わなくなる、AIは嘘をつく、うちは特殊、という残りの反論にも、それぞれ打ち手があります。そのうえで、AIを入れないほうが正しい会社もあります。

赤堀亘
執筆・監修 AiWiLL株式会社 代表取締役 赤堀亘

AiWiLL株式会社代表。AI顧問「WiLLAGENT」で、企業の仕事をAIと人が進められる形にする伴走支援を行っています。記事では、実務で使える手順と、人が確認すべき点を明らかにします。

この記事は、YouTube「AI顧問の現場録」で、熱海のサンビーチで、社長からのお便りと聞き手の高橋が足した反論に、AI顧問の私が答えた回の記録です。撮影日(2026年10月10日)時点の内容です。

この記事の結論

  • 出発点は「会社が一番大事にしているものは何か」。お客さんとの電話や紙のやりとりそのものが価値なら、今のままでいい。そうでないなら、それ以外に使っている時間を減らします。
  • 社員が嫌がるときは、2つ。新しいやり方で浮いた時間を休みや評価・給料に返すことと、使う人と一緒に作ることです。
  • 情報漏洩の責任は、導入した会社が負います。だから、得られるメリットとリスクを天秤にかける。リスクのほうが大きいなら、入れない判断は正しい。ネットにつながない社内専用のAI(ローカルLLM)という選択肢もあります。
  • 使わなくなるのを防ぐのは、導入のフェーズを踏むこと。いきなり全社導入・全社研修だけだと、使われなくなりがちです。
  • 「AIは嘘をつく」と言う人は、無料プランの人が多い。精度はプランと、何を参照させるかで変わります。
  • 特殊な業界でも、パソコンの作業や、経理・採用などの周辺業務は減らせます。
  • 最初の一歩は、「うちが一番大事にしている仕事は何か」を1行で書くことです。

動画で見たい方は、YouTube「AI顧問の現場録」の回をどうぞ:「うちにAIはいらない」社長の6つの反論に、AI顧問が全部答える(2026年10月10日の収録)

社長の6つの反論と、答え

「うちには絶対にAIなんていらないんだ」という社長から、お便りが届きました。理由は3つ。聞き手の高橋が、よく聞く反論を3つ足しました。わかります。結構あるあるで、よくあるんですよね。

図解

① 紙と電話で、困ってない

会社が一番大事にしているもの次第。それ以外の時間を減らす

② 社員が、嫌がる

浮いた時間を休みや給料に返す。使う人と一緒に作る

③ 漏れたら、誰が責任を

責任は導入した会社。メリットとリスクを天秤に。ローカルLLMもある

④ どうせ、使わなくなる

導入のフェーズを踏む。いきなり全社にしない

⑤ AIは、嘘をつく

プランと、何を参照させるかで精度が変わる

⑥ うちの業界は、特殊

パソコンの作業と、周辺業務は減らせる

社長の6つの反論と、答え

1つずつ、収録で答えたことを書きます。

反論① 紙と電話で回っていて、困ってない

1つ目は、「紙や電話やFAXで回っている。時代には合っていないかもしれないが、困ってないぞ」です。

AIに何を期待するかは、会社がどうありたいかによります。お客さんに一番いいコミュニケーションでサービスを届けることが一番大事で、お客さんと直接電話を取り、しっかり紙に残していくこと自体が価値なら、それでいいと思います。

でも、そこが価値ではなく、「うちの確かな技術で、この商品を作ること」が大事なのだとしたら、そこに一番時間をかけるべきです。

図解

お客さんとのやりとりが価値の会社

電話を取り、紙に残すこと自体がサービス。今のままでいい

自社の技術が価値の会社

紙の資料・電話の応答・FAXの処理・手入力の会計に、大事な時間を取られている

会社の価値はどこにある?

紙で残すということは、売上の計算や会計も、紙を見ながらパソコンに手で入力することになります。実は、自分たちが本当に大事にしたいところに、時間を使えていないんです。

だから私は、「一番大事にしていることは何ですか」から入ります。そこが分かれば、方向は3つです。それ以外に使っている時間を減らして本当に使いたいところへ回すのか、大事にしているものの品質を上げるためにAIを使うのか。会社のありたい姿に合わないなら、提案しない、打ち切るという判断もあります。

反論② 社員が嫌がる

2つ目は、「ベテラン社員ほど嫌がるんじゃないか」です。社長だけが社内を改革したくて導入し、社員が困って離職につながる。これは本当によくあることで、切実な悩みです。

確かに、一気に改革したり、上から「これをやってください」と言ったりすると、反発が起きます。打ち手は2つあります。

図解

インセンティブ

新しいやり方で浮いた時間の分、休みが増える。評価の基準として給料が上がる

一緒に作る

プロトタイプを出し、触ってもらい、フィードバックをもらって直す。作る過程に巻き込むと愛着がわく

社員が嫌がるときの、2つの打ち手

1つ目は、新しいことをやるためのインセンティブです。時間が減った分、休みが増える。評価の基準として給料が上がる。こうしたモチベーションの設計は、まず絶対に必要です。

2つ目は、新しい技術を、自分たちにとって馴染みのあるものにすることです。私たちの場合は、導入の仕方を一緒に考えます。システムを作るなら、一緒に作ります。まずプロトタイプを出して触ってもらい、フィードバックをもらって直し、皆さんが一番使いやすい形にしていく。この過程に巻き込むと、愛着を持って、すんなり使ってもらえます。

AIに関して言うと、AIを使いこなすスキル自体が、本人のキャリアになります。ただのベテランの建設作業スタッフと、AIを使って建設の業務を改善し、こなしていける人。どちらを採りたいかと言えば、後者です。私が会う社長の多くは、AIで業務を改善しつつ、自分の生産性も高い人材を求めています。それを社員に伝えます。

ただ、これを給料の話にすると、日本はまだ追いついていません。PwCが27の国と地域の10億件を超える求人広告を分析した調査では、AIのスキルを要件とする求人の提示給与は、要件としない同等の求人より平均62%高い(前年の調査では57%)という結果でした。一方でPwC Japanグループは、日本のAIスキル保有者への賃金の上乗せは、このグローバル平均を大きく下回っていると書いています。市場が給料で返してくれるのを待つより、社内の評価と給料で返す。1つ目のインセンティブが要るのは、このためでもあると私は考えています。

出典:PwC「AIジョブバロメーター」2026年版(グローバル版の発表は2026年6月15日、日本語版と日本の分析は2026年9月10日公開)。PwC Japanグループの解説ページ

導入先には、いかつい技術を持った職人のような方もいらっしゃいます。でも、突き抜けた職人さんほど、新しい技術で自分の追い求めているものをもっと追求できると分かると、すんなり使ってくれます。使ってみたらハマって、ガシガシやってくださる方もいます。聞き手の高橋も「50代でも『え、おもろいじゃん』と言ってくれる」と話していました。

導入したのに使わない社員がいるときの話は、社員がAIを使ってくれない理由にまとめています。

反論③ 情報が漏れたら、誰が責任を取るのか

3つ目は、「情報が漏れたら、誰が責任を取ってくれるんだ」という、結構強火な反論です。

責任を取るのは、もうしょうがない。実施した会社になります。責任の部分は置いておいて、「情報が漏れるんじゃないか」については、大きく2つお話しできます。

1つ目は、天秤にかけることです。AIを入れて生産性が大きく上がれば、売上が今の2倍、3倍になることもあり得ます。会社が大きくなる、生産性が上がるというメリットと、情報漏洩したときに責任を負うリスク。どちらが大きいか。入れたほうがメリットが大きそうなら入れればいいし、リスクのほうが大きいなら、AIを導入しない選択は正しいと思います。

2つ目は、お金はかかりますが、スペックの高いパソコンの中に生成AIの環境を作る、ローカルLLMです。インターネットに接続していない状態で、ある程度計算力の高い生成AIを使う。銀行や士業には、この選択をするところもあります。

図解

パソコン本体

最低でも200万円以上

電気代

24時間フル稼働で、月1万円ほど余分に

設計と導入まで含めて

本社に1台なら、予算400〜500万円ほど

2台、3台、性能を上げる

性能は上げようと思えばいくらでも上げられる。何千万円の1台も

ローカルLLMの費用(収録時の目安)

電気代の月1万円は、こう考えると見当がつきます。家庭向けの目安単価31円/kWhで割ると、約320kWh。1か月の720時間で割ると、平均で約450Wを24時間使い続けた計算です。台数や載せる部品、動かし方で変わります。

出典:公益社団法人 全国家庭電気製品公正取引協議会「よくある質問」(目安単価31円/kWh・税込、令和4年7月22日改定)。Q&Aページ

それでも、人件費に換算したらどうか、それだけのリスクを防げるならと、導入する企業もちらほらあります。こういう選択肢もある、というのが答えです。ただ、ネットにつながないことで外へ出る経路は減りますが、社内での持ち出しや端末の管理は、別に決めておく必要があります。

クラウドのAIのまま安全に使う設計(学習させない設定、入力してよい情報の線引き)は、AI導入のセキュリティと情報入力の考え方に書いています。社内ルールのひな形は生成AIの社内ルールの作り方にあります。

反論④ 高いお金を払っても、使わなくなる

ここからは、聞き手の高橋が足した3つです。1つ目は、「高いお金を払って導入しても、使わなくなっちゃうんじゃないか」。

導入には、会社によってフェーズがあると、体感で思っています。

図解

  1. 具体的な業務に使う

    「このシステムにチャットするだけで、これができる」という使い道を作る。社内がAIを使うイメージを膨らませる

  2. 社員を教育する

    全体に研修する

  3. 社内に導入する

    全社に入れるか、幹部や個別のプレイヤーだけに入れるか

  4. スタープレイヤーを作る

    その人の業務の実態に合わせて並走し、使いこなすところまで浸透させる。1人できると、そこから広がる

AI導入のフェーズ

最初は、目の前の業務で「これにチャットするだけで、これができる」という使い道を作り、社内がAIを使うイメージを膨らませる。次に全体へ研修し、全社か、幹部などの個別のプレイヤーに導入する。そして一人ひとりの業務の実態に合わせて並走し、使いこなすところまで浸透させる。スタープレイヤーが1人できると、そこから波及して広がっていきます。

今の会社のフェーズに合った進め方をすれば、「あまり使われないね」とはならないと思います。収録の時点で、私たちの支援先に、使われなくなった会社は今のところありません。

逆に、フェーズに合わないまま「とりあえず全社に導入しました」「とりあえず全社研修しました」だと、使われなくなりがちです。最初の90日の進め方は中小企業のAI導入の進め方に、止まった会社に共通していたことはAI導入の失敗パターン7つにまとめています。

反論⑤ AIは嘘をつく

2つ目は、「AIって嘘つくよね」です。これは、無料プランを使っている人からよく言われます。

もちろん、AIは間違えます。ただ、無料プランと有料プランでは、間違え方が大きく変わります。理由の1つが、コンテキストウィンドウ、つまり一度に覚えておける情報の量です。

AIは、どれだけのデータを使って計算するか、どこからデータを取ってくるか、そしてそのデータをしっかり覚えておけるかが大事です。サービスによっては、無料プランは覚えておける量が小さく、使えるモデルも限られます。すると、最初に「これをお願いします」と言ったことを、少し会話するとすぐ忘れて、めちゃくちゃなことを言う。膨大なデータを処理しきれず、適当なことを返す。そうなりがちです。

だから、まず課金するだけで、精度はめちゃくちゃ上がります。差の大きさはサービスと使い方によりますが、仕事で使うなら無料プランで判断しないでください。

そのうえで大事なのが、どの情報を使わせるかです。社内の膨大なデータベースをAIが参照して答えるなら、より安心です。自分が信用しているメディアがあるなら、そこから引用させる。先に、信用できる情報元を持っておくようにしましょう。何を参照させるかの作り方は、私たちが特に力を入れているところです。

ただし、課金して参照先を決めても、間違いはゼロにはなりません。大事な数字や引用は、元の資料と照らし合わせる手順を残しておきます。照らし合わせ方はNotebookLMの引用は正しい?に、会社の資料を読ませる手順は会社の資料をAIに読ませるに書いています。

反論⑥ うちの業界は特殊

最後は、「うちは特殊な仕事だから、難しいんじゃないか」です。特殊のパターンは3つあります。

図解

特殊なソフトを使う

AIがパソコンの画面を見て操作する(コンピューターユース)。CADや画像編集ソフトを操作させる、3Dモデルを作る

機密情報が多すぎる

ネットにつながないローカルLLMで、安全な環境で作業させる

人の手が要る現場の仕事

その作業は人にしかできない。でも経理・採用・手続きなどの周辺業務は減らせる

「うちは特殊」の3つのパターン

1つ目は、特殊なやり方や特殊なソフトを使っている場合です。今のAIは、パソコンを操作できます。コンピューターユースと言って、精度もかなり上がってきました。CADを操作させる、Photoshopを操作させる、3Dモデルを作っていく、といったこともさせられます。パソコンで仕事をしている方なら、特殊な業界でも結構いけます。ただ、どこまで任せられるかはソフトと作業で差があるので、最初は人が見ながら小さく試します。

コンピューターユースは、Anthropicが2024年10月22日に発表した機能で、AIが画面を見て、カーソルを動かし、ボタンを押し、文字を打ちます。発表時点では「実験的で、ときに扱いにくく誤りやすい」と書かれていました。出典:Anthropic「Introducing computer use」(2024年10月22日)。発表ページ

2つ目は、機密情報を扱いすぎているパターンです。これも、反論③のローカルLLMを使えば、安全な環境で特殊な作業をさせられます。

3つ目は、人間がどうしても作業しないといけない、現場の超特殊な仕事です。確かに、その仕事自体は人間にしかできません。でも、24時間365日その作業だけをやる仕事は、ほぼありません。会社としてやっているなら、手続きも経営も経理もあるし、人を雇っていれば採用もあるはずです。本当にやるべきこと以外の周辺業務が、必ず発生しています。そこをAIでいかに減らして、自分にしかできないことに一番時間を使うか。そちらは、やる価値があります。

周辺業務の洗い出し方は業務の棚卸しのやり方に、経理の例は中小企業の経理のAI活用にまとめています。

「いらない」が正しい会社もある

6つの答えを並べると、AIを入れないほうが正しい場合が2つあります。お客さんとの電話や紙のやりとりそのものが会社の価値で、そこを変える理由がない場合(反論①)。そして、情報漏洩のリスクのほうが、得られるメリットより大きい場合(反論③)です。

どちらでもないのに「困っていないから」「なんとなく怖いから」で止まっているなら、一度、時間の使い方を見直す価値があります。売る側から見た「AI顧問がいらない会社の条件」は、AI顧問のデメリットといらない会社の条件に正直に書いています。

持ち帰り:6つの反論を、自社への問いに直す

最初の一歩は、「うちが一番大事にしている仕事は何か」を1行で書くことです。それ以外の仕事が、AIに渡す候補になります。

1行書けたら、6つの反論を自社への問いに直して、答えを書いてみてください。

反論自社に聞く問い
① 紙と電話で、困ってない一番大事にしている仕事は何か。それ以外に、毎週何時間使っているか
② 社員が、嫌がる浮いた時間を、休み・評価・給料のどれで返すか。最初に一緒に作る人は誰か
③ 漏れたら、誰が責任をAIに触らせてよい情報と、触らせない情報は何か。メリットとリスクのどちらが大きいか
④ どうせ、使わなくなる今、導入のどのフェーズにいるか。最初に作る「チャットするだけでできる使い道」は何か
⑤ AIは、嘘をつく仕事で使っているのは会社が契約したプランか。AIに参照させる、信用できる情報元は何か
⑥ うちの業界は、特殊本業以外の周辺業務(経理・採用・手続き・資料づくり)に、毎週何時間使っているか

まとめ

「うちにAIはいらない」と言う社長への答えは、会社が一番大事にしているものから決まります。お客さんとのやりとりそのものが価値なら今のままでいいし、自社の技術が価値なら、それ以外に取られている時間を減らすべきです。社員が嫌がるならインセンティブと一緒に作ること、情報漏洩が心配ならメリットとリスクの天秤とローカルLLM、使わなくなるのが心配なら導入のフェーズ、嘘が心配ならプランと参照先、特殊な業界なら周辺業務。それぞれに打ち手があります。

最初の一歩として、「うちが一番大事にしている仕事は何か」を1行で書いてみてください。

※撮影日(2026年10月10日)時点の内容です。ローカルLLMの金額は、社内に1台置く場合の収録時の目安で、構成や台数によって変わります。

医療、建設、農業、営業、製造、飲食など、さまざまな仕事の人が並ぶAiWiLLのキービジュアル。AIを使いこなす会社は、イケてる。

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